顎関節(TMJ)が原因で頭痛・耳の詰まった感じ・耳鳴りが起こることはありますか

耳は正常だと言われました — それなのに、なぜ詰まった感じと頭痛が引かないのでしょうか
40代初めの患者さんが、疲れたご様子で来院されました。「院長先生、数か月前から片方の耳が詰まった感じで、ピーッという音がします。耳鼻咽喉科を3か所も受診しましたが、どこも耳は正常だと言われました。神経内科で頭痛の薬ももらいましたが、そのときだけで……。私はどこが悪いのでしょうか?」いくつもの病院を回り、最後に歯科へお越しになったケースでした。私はこうお伝えしました。「耳ではなく、耳のすぐ前にある顎関節(TMJ)を一度拝見したほうがよさそうです。」
このような患者さんは当院の診療室でも珍しくありません。本稿の要点は3つです。第一に、顎関節(TMJ)が頭痛や耳の症状とどう結びつくのか。第二に、検査で「異常なし」と言われるのに、なぜ症状が続くのか。第三に、どのような場合に他科を先に受診すべきで、どのような場合に顎を疑うべきか、です。
まず用語の意味をそろえておきます.
関連症状(referred symptom):実際に問題が起きている場所とは別の部位で感じられる症状。顎関節(TMJ)や咀嚼筋のトラブルが、耳や頭の症状として現れる場合がこれに当たります。
顎が原因で頭痛が起こることはありますか?
まずは根拠からお話しします。結論として、関連があります。
こめかみを覆う咀嚼筋(側頭筋)は、歯を食いしばると一緒に緊張します。この筋肉の緊張が続くと、こめかみが締め付けられるように痛む頭痛につながることがあります。実際、複数研究を統合した解析では、片頭痛や緊張型頭痛のある方は、そうでない方に比べて、筋肉由来の痛みを伴う顎関節(TMJ)障害を併発している割合が高いと報告されています。興味深いことに、痛みのない関節のみの問題は頭痛と明確には結びついていません 1. つまり、顎と頭痛を結ぶ中心的なカギは、関節そのものよりも咀嚼筋の緊張であることが多いのです。

顎が原因で耳の詰まった感じや耳鳴りが起こることはありますか?
この点は患者さんが最も不思議に思われるところです。顎関節(TMJ)は耳のすぐ前に付いています。指を耳の前に当てて口を開け閉めすると動く、あの関節です。位置がこれほど近く、神経も絡み合っているため、顎の問題が耳の症状として感じられることがあります。
数字でお示しします。顎関節(TMJ)障害の患者さんを総合的に解析した研究では、耳の詰まった感じが74.8%、耳の痛みが55.1%、耳鳴り(耳の響き)が52.1%でした 2. 半数を超える方が耳の症状を併発しているということです。
顎関節(TMJ)の患者さんの耳の症状は、耳が壊れているのではなく、耳のすぐ前にある関節と筋肉に由来することが多いのです。そのため、耳の中をどれだけ詳しく見ても「正常です」と言われてしまいます。
耳は正常だと言われるのに、なぜ症状が続くのでしょうか?
ここで多くの方がそう思い込んでいますが、実は少し違います。「耳が詰まって音がする=耳の問題だ」— これは半分だけ正しいのです。
もちろん本当に耳の疾患の可能性があるため、まず確認すべきです。ですが検査で耳の構造に問題がないのに症状が続くなら、発信源は耳ではなく、その前の顎かもしれません。耳の中に異常がないため耳鼻咽喉科の検査は正常となり、肝心の原因である顎関節(TMJ)は検査の対象外だった、というわけです。このつながりを見落とすと、患者さんは複数の科を渡り歩きながら「異常なし」とだけ繰り返し告げられてしまいます。
ひとつ正直にお伝えしておきます。顎関節(TMJ)と耳・頭の症状との関連は複数の研究で観察されていますが、顎を治療すれば必ず良くなると断言できるほど確かな根拠はまだありません。American Dental Associationの学術誌によるエビデンスレビューでも、この関連自体は認めつつ、エビデンスの水準は依然として限定的だとまとめています [Hernández-Nuño de la Rosa MF, Keith DA, Siegel NS, Moreno-Hay I. Journal of the American Dental Association. 2022;153(11):1096–1103]. ですので私は、患者さんには「顎を診れば必ず治る」ではなく「確認してみる価値があります」とお伝えしています。
こんなサインがあれば顎を疑ってください 7つ
頭痛や耳の症状が顎に由来する可能性を示唆するサインです。
- こめかみ・頬の筋肉を押すと鈍く痛みます— 咀嚼筋の緊張の痕跡です。
- 朝に頭痛・顎のだるさが強いです— 就寝中に歯を食いしばっていた可能性があります。
- 噛む・あくびをすると耳の症状や頭痛が変わります— 顎の動きと症状が連動しています。
- 耳鼻咽喉科で「耳は正常」と言われました— 耳そのものの異常が除外された状態です。
- 顎で音がする、または口が以前ほど開きません— 顎関節(TMJ)の問題を併発しています。
- 耳鳴りが主に片側で、顎を使うと変化します— 顎との関連を示唆します。
- 鎮痛剤で頭痛はいったん和らぎますが、また繰り返します。— 根本の出どころが別にある可能性があります.
では何科から受診すべきでしょうか? — 他科が先 vs 顎関節(TMJ)の評価
むやみにまず顎から診ろという意味ではありません。危険な原因を先に除外する順序が大切です。
| 比較項目 耳鼻咽喉科・神経内科を先に、歯科(顎関節(TMJ))での評価を検討 | ||
| どんな場合に? | 耳からの膿・発熱、突然の聴力低下、破裂しそうな最悪の頭痛、手足のしびれなどの神経症状。 | 耳・脳の検査は正常なのに、顎のサインが併発しているとき。 |
| どんなサイン? | 感染・急性の聴力変化・緊急性のある頭痛。 | 噛むと悪化、筋肉の圧痛、関節音・開口制限。 |
| 目的 | 真の耳疾患・神経疾患の除外。 | 症状の出どころが顎かどうかを確認。 |
まとめると、危険な原因をまず除外しても症状が残り、顎のサインがあるなら、そのときは顎関節(TMJ)を診るべきです。
いくつも病院を回っても異常がないと言われます。私が神経質すぎるだけでしょうか?
診療室では「検査のたびに正常と言われます。私が過度に敏感で、ない病気を作っているのでしょうか?」と自分を責める方が少なくありません。そうではありません。
症状は実在します。ただ、その出どころが検査した部位(耳・脳)ではなく、その隣(顎)だっただけです。検査が正常というのは「症状が偽物」という意味ではなく、「そこが原因ではない」という意味です。仮病でも、神経質の問題でもありません。単に、まだ正しい場所を見ていないだけかもしれません。ですから自分を責めるより、顎という新しい候補を一度確認してみてください。
当院の診療室での症例を2つ。
40代前半の女性患者さま。数か月にわたり片側の耳が詰まった感じと耳鳴りがあり、耳鼻咽喉科を何度も受診しましたが、耳は正常でした。咀嚼筋に明らかな圧痛があり、歯ぎしりの習慣があったため、筋のリラックスと習慣のコントロールを開始しました。耳の症状は目に見えて減りましたが、完全には消えませんでした。 関連症状は改善することが多い一方、完全消失をお約束するのは難しいです。
30代半ばの男性患者さま。こめかみの頭痛が繰り返され、神経内科で検査を受けましたが異常はありませんでした。咀嚼筋が常にこわばり、朝の頭痛が強い状態でした。リラクゼーション運動と噛みしめのコントロールで頭痛の頻度が減りました。 筋肉由来の頭痛は、筋肉を適切に扱うと変わる場合があります。
患者さまにぜひ覚えておいていただきたい5つのポイント
- 顎関節(TMJ)は、頭痛・耳の詰まった感じ・耳鳴りと関連することがあります。耳そのものの異常ではなく、その手前の関節・筋肉が出どころである場合が多いです。
- まず危険な原因を除外してください。感染・急性の聴力低下・緊急性のある頭痛・神経症状は、耳鼻咽喉科・神経内科が先です。
- 耳・脳の検査が正常で、顎のサインがあるなら顎を疑ってください。噛むと悪化、筋肉の圧痛、関節音が手がかりです。
- 顎の治療で必ず良くなると断定はできません。ただし、確認してみる価値はあり、筋肉性の問題であれば良くなる場合があります。
- 複数の病院で正常と言われても、仮病ではありません。症状は本物で、まだ正しい部位を見ていないだけかもしれません。
ソウルBD歯科 ムン・ソクジュン(文錫俊)院長です。複数の科を回ってお疲れの患者さまに、症状は偽物ではなく、出どころが違っていただけだということをぜひお伝えしたいと思いました。
参考文献
この記事の医学的主張は以下の論文に基づいています。DOIをクリックすると原文に移動します。
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21(2):597–605 DOI: 10.1007/s00784-016-1926-9