子どもが乳歯をぶつけました。乳歯の外傷、いつ受診すべきですか

子どもが乳歯をけがしたとき — 実は心配すべきなのはその歯ではありません
3歳児を抱っこして保護者の方が急いで来院されました。ソファで跳ねていて落ち、前歯が歯ぐきの中へグッと押し込まれて半分だけ見える状態でした。「これは抜いたほうがいいですか?それとも引っ張り出したほうがいいですか?」私はまず「多くはそのまま経過観察します。無理に手を加えるほうがかえって良くありませんよ」とご安心いただくようお伝えしました。
これまで歯の外傷について3回取り上げましたが、すべて大人の歯(永久歯)を前提にしていました。ところが最も外傷が起こりやすいのは、歩き始めて走り回る幼いお子さんです。本稿の結論を先にお伝えすると、要点は3つです。第一に、乳歯の外傷は大人の歯と処置の原則が正反対な点が多いこと。第二に、本当に心配すべき対象は何かということ。第三に、どんなサインならすぐ受診すべきかということです。
まず用語を整理します。
乳歯の外傷: まだ抜けていない乳歯が転倒やぶつけたことで傷ついた状態。乳歯そのものよりも、その下の歯ぐきの中で育っている永久歯の芽(歯胚)までが心配の対象になります。
抜けた乳歯も大人の歯のように元に戻すべきですか?
ここで最も重要な思い込みを正します。「歯が抜けたら元に戻すべきだ」 — 大人の歯には当てはまりますが、乳歯では真逆です。
前回の記事では大人の歯が丸ごと抜けた場合は、その場ですぐ戻すようお伝えしました。しかし乳歯は再植しません。国際歯外傷学会(IADT)のガイドラインでも、脱落した乳歯は再植しないことを明確に推奨しています。無理に戻すと、歯ぐきの中で育っている永久歯の芽を刺激し、かえって傷つける恐れがあるためです 1.
ですからお子さんの乳歯が抜けたら、元に戻そうとせず、出血している場合はガーゼで圧迫止血してから歯科を受診してください。歯が本当に脱落したのか、歯ぐきの中に押し込まれて見えなくなっているのか、確認が必要だからです。

本当に心配すべきなのは乳歯ではなく、その下です
ここで保護者の方がよく持つもう一つの考え「乳歯はいずれ抜けるから、多少のけがは気にしなくていい」— これは半分だけ正しいです。
乳歯自体はいずれ抜けて永久歯に生え替わります。それは正しいです。しかしその乳歯のすぐ下、歯ぐきの中には、これから生えてくる永久歯の芽(歯胚)が育っています。乳歯を強くぶつけたり歯ぐきの中へ押し込んだりすると、その衝撃が下の芽にまで伝わることがあります。
お子さんが乳歯をけがしたときに本当に大事なのは、目に見える乳歯ではなく、歯ぐきの中でまだ育っている永久歯の芽(歯胚)です。だから乳歯の外傷は「歯が1本けがした」で終わりではなく、数年後に生えてくる永久歯まで見据えて経過を見ていくことになります。
国際的なガイドラインによれば、乳歯外傷の中でも特に歯ぐきの中へ押し込まれる陥入や、完全に抜ける脱落は、その下の永久歯の芽に影響するリスクが高いとされています。のちに永久歯に白い斑点や黄ばみが残ったり、形が少し違って出てきたり、生える時期がずれることがあります。私はこの可能性をあらかじめ保護者の方にお伝えしています。怖がらせるためではなく、後で永久歯に痕が見えても驚かれないようにするためです。
こんなサインがあれば、すぐに歯科へ
軽い打撲なら観察だけで十分なことも多いですが、次のサインがあれば直ちに受診が必要です。
- 歯が強くグラグラして今にも抜けそう— 飲み込んだり気道に入る危険があります.
- 歯が完全に抜けた— 元に戻さず、抜けた歯を持って歯科へ行ってください。
- 歯ぐきが腫れた/歯ぐきにニキビのようなできものができた— 膿の通り道で、感染のサインです。
- 痛がって食べられず、発熱している— 感染や別の損傷が疑われます。
- 歯が歯ぐきの中に押し込まれて短く見える/見えない— 陥入の可能性があり、確認が必要です。
- 口を閉じると歯が引っかかって閉じにくい— 歯が押し出された状態かもしれません。
- 唇・歯ぐきが裂けて出血が止まらない— 縫合が必要な場合があります。
乳歯が歯ぐきの中に入り込みました。抜くべきですか?
子どもが前に転ぶと、乳歯が歯ぐきの中へ押し込まれることはよくあります。歯が短く見えたり、まったく見えずに驚かれることが多いですが、ほとんどはすぐに抜きません。
以前は、歯が永久歯の芽の方向へ押し込まれた場合はすぐ抜くべきだと言われることもありました。今はそうではありません。埋まり込んだ乳歯の多くは数週間から数カ月で自然に戻ってきます。無理に抜く処置そのものが永久歯の芽を傷つける恐れもありますし、早く抜けば芽の損傷が減るという根拠も乏しいからです。ですので、基本的には経過を見ながら自然に戻るのを待ちます。
けがをした乳歯が黒っぽくなりました。抜くべきでしょうか?
時間がたつと、けがをした乳歯が灰色や黒色に変色して受診されることがよくあります。親御さまは「虫歯で腐ってしまったのでは?」と心配されますが、変色そのものが直ちに抜歯を意味するわけではありません。
外傷で歯の内部に出血が起こり、その血液成分がしみ出して色が暗くなることがあります。お子さまが痛がらず、歯ぐきの腫れや膿の出口(フィステル)がなければ、そのまま経過観察とすることが多いです。実際、変色した乳歯でも問題なく時期が来て自然に抜け、永久歯に生え替わることがよくあります。ただし、歯ぐきが腫れる・膿の出口ができる・痛がるといった場合は感染のサインですので、抜歯が必要になることがあります。つまり、判断の基準は変色そのものではなく、感染のサインが伴っているかどうかです。
乳歯の外傷と大人の歯(永久歯)の外傷、何が違いますか?
親御さまが混同しやすい2つのケースの違いを整理しました。
| 比較項目 乳歯の外傷 大人の歯(永久歯)の外傷 | ||
| 抜けたとき | 元に戻しません | すぐに元に戻します |
| 主な心配ごと | 歯ぐきの中の永久歯の芽です | その歯自体を保存することです |
| よく行う処置 | 経過観察だけで十分なことが多いです | 積極的な処置になることが多いです |
| 変色したら | よくあることで、感染がなければ経過観察です | 神経のトラブルのサインである可能性があります |
ひと言でいえば、乳歯の外傷は「むやみに触らずよく見守る」傾向、永久歯の外傷は「早めに手当てする」傾向です.
ほんの少し目を離した間のけがを、どうか自分のせいにしないでください
お子さまがけがをして連れて来られる親御さまは、ほとんど例外なく「ほんの一瞬目を離した隙に」「ちゃんと見ていればよかったのに」と自分を責められます。そんな必要はありません。
歩き始め、走り始めたばかりの時期は、転ぶのが当たり前です。実際、この頃の歯の外傷の最も多い原因は、家の中での転倒です。どんなに気をつけて見ていても、完全には防げません。親御さまの不注意ではなく、この年齢に自然に起こりやすい出来事に近いのです。自分を責めるよりも、今なにを観察すべきかを知ることのほうが、ずっと役に立ちます。
当院の診療室から2つの症例
3歳のお子さま。転倒して前歯の乳歯が歯ぐきの中に埋まり、見えないほどでした。親御さまは抜くべきかと大変心配されましたが、経過観察としました。数か月かけて歯は自然に元の位置まで降りてきました。 陥入した乳歯は、焦らず待つことが正解な場合が多いです。
4歳のお子さま。以前にけがをした乳歯が灰色に変色したままでしたが、ある日、その歯の上の歯ぐきににきびのような膿の出口ができました。この場合は感染のサインですので、その乳歯を抜歯しました. 変色だけなら見守れますが、感染のサインが加わると対応は変わります。
親御さまにぜひ覚えておいてほしい5つのポイント
- 抜けた乳歯は元に戻さないでください。大人の歯とは正反対です。永久歯の芽を傷つけてしまうおそれがあります。
- 本当に心配すべきは乳歯そのものではなく、その下の永久歯の芽です。とくに陥入・完全脱臼が危険です。
- 歯ぐきの中に押し込まれた乳歯は、たいてい自然にまた降りてきます。焦って抜歯はしません。
- 変色そのものは、必ずしも抜歯のサインではありません。腫れ・膿の出口・痛みが一緒に出る場合は、そのときは受診が必要です。
- 少し目を離したすきにけがをしたからといって、親御さまのせいではありません。この年齢ではよくあることです。
ソウルBD歯科のムン・ソクジュン(文錫俊)院長です。けがをしたお子さまを抱えて自分を責めながら来院される親御さまに、今見るべきなのは目に見える乳歯ではなく、その下で育っている永久歯だということをぜひお伝えしたいと思います。
参考文献
この記事の医学的主張は以下の論文に基づいています。DOIをクリックすると原文に移動します。
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36(4):343–359 DOI: 10.1111/edt.12576