歯がぐらついたり押し出されたとき、どうすればよいですか

抜けても折れてもいないのに — 最も放置されがちな歯の外傷
10代後半の患者さまが、事故から三日後に来院されました。転んで前歯をぶつけましたが、歯は抜けも折れもしていませんでした。「ちょっとぐらついて、少し前に出た気はするけれど、折れてもいないし大丈夫だと思いました。」この言葉は本当によく耳にします。そして多くの場合、その時点ではすでに最も惜しい時間が過ぎてしまっています.
これまで、歯が丸ごと抜けたケースと折れたケースを取り上げました。今回はその中間にある、見た目は最も無傷に見えるのに実は放置されがちな損傷です。このコラムで押さえていただきたいのは三点です。第一に、歯がぐらついたりずれたりしたときに放置してはいけない理由。第二に、タイプによって対処がどう異なるか。第三に、受傷直後その場で何をすべきで、何をしてはいけないか、です.
まず、用語の意味をそろえておきます。
歯の脱臼性損傷(luxation):歯は抜けていないものの、衝撃でぐらついたり本来の位置からずれた状態。ぐらつきだけのものから、骨の中にめり込んだものまでタイプが分かれます.
抜けていなければ大丈夫ではないのですか?
ここで最も重要な思い込みを正します。「歯が抜けても折れてもいなければ大丈夫」— これは半分も正しくありません。
見た目の歯は無事でも、歯ぐきの中では歯を骨に支える薄い靭帯が裂け、根の先の血管や神経が伸びたり切れたりしていることがあります。目に見えないところで起きているため、患者さまご自身では気づけません。時間とともに神経が徐々に死に、数か月後に歯が黒ずんで変色したり、歯ぐきに膿が溜まってから受診されることも珍しくありません.
ずれた歯の運命を最も左右するのは、痛みの強さではなく、どれだけ早く元の位置に戻せたかです。痛みが強くないからといって安心してはいけません。
時間が重要な、もう一つの現実的な理由があります。歯がずれた隙間にはすぐに血が固まって塊ができます。数日たつとこの凝固した血が邪魔をして、指で元の位置に押し戻すのが難しくなります。そうなると、手術や矯正用の装置で戻さなければならない、はるかに複雑な道になります.

ぐらつく場合とずれた場合、タイプはどう違うのでしょうか?
タイプによって緊急度と治療は大きく異なります。ご自身の状況を見きわめられるよう、整理しました。
| タイプ どんな状態? どれくらい緊急か 主な対応 | |||
| ぶつかっただけ(打撲) | ぐらつきなし。叩くと痛い | 数日以内 | 多くは固定せず経過観察、やわらかい食事 |
| ぐらつき(亜脱臼) | ぐらつきがあり、歯ぐきから出血 | 一~二日以内 | 必要に応じて短期間固定、神経の経過観察 |
| 前方へ飛び出す(挺出) | 歯が長く見え、強くぐらつく | できれば当日中に | 元の位置に押し戻し、約 2週間固定 |
| 横へずれる(側方) | 歯が傾き、噛み合わせが合わない | できれば当日中に | 元の位置に戻して固定 |
| 骨の中にめり込む(陥入) | 歯が短く見え、ぐらつかない | 直ちに | 元に戻すのに時間がかかり、固定期間もより長い |
この中でとくに混同しやすいのが陥入です。歯が骨の中にめり込むと、かえってしっかり固定されたように揺れないため、患者さんは「大丈夫」と誤解しがちです。しかし、損傷としては最も重い部類に入ります。
歯がぐらついたり押し出されたときは、その場でこうしてください。
- 無理に触ったり揺すったりしないでください。— 「どのくらい揺れるのか」を続けて確かめるあいだに、歯根膜がさらに傷つきます。
- ずれた歯を力ずくで押し戻そうとしないでください。— 向きをわからないまま押すと、かえって損傷が大きくなります。
- 出血があれば、ガーゼでやさしく圧迫して止血してください。— 5分ほど押さえてください。
- できれば当日のうちに歯科へお越しください。— 凝固した血がたまる前に元の位置へ戻すほうが有利です。
- 受診までのあいだ、歯を噛み合わせないでください。— ぶつからないよう、口を少し開けたままお越しください。
- 数日はやわらかい食事でお過ごしください。— けがをした歯では噛まないでください。
- 歯が折れている場合は、さらに緊急性が高いです。— ずれと破折が重なると、神経が死ぬリスクが明確に高まります。
なぜ数か月後にまた来るよう言われるのですか?
外傷治療で最もご理解いただきにくいのが、この定期観察です。事故当時の処置は終わっているのに、なぜ6か月、1年後まで受診するのかと不思議に思われる方が多いです。
理由はこうです。ずれた歯の神経は事故直後ではなく、数週から数か月にかけて徐々に死んでいくことがあります。逆に、最初は反応がなかった神経が時間の経過とともに回復することもあります。そこで国際的な外傷治療ガイドラインでも、事故直後にすぐ神経治療(根管治療)を始めるのではなく、定められた間隔で経過を見ながら判断することを勧めています 1.
率直に申し上げると、歯のずれが大きいほど神経が死ぬリスクは高くなります。単にぐらついているだけの場合より、前方へ押し出されたり骨内に陥入した場合のほうが予後は悪いです。ですから「当座は大丈夫に見える」という言葉は、「もう来院しなくてよい」という意味ではありません。
事故直後に来なかったのは、間違いだったのでしょうか?
数日たって受診された方は、ほとんど例外なく「そのときすぐ来るべきでした」と自責されます。そんな必要はありません。
抜けても折れてもいない歯が危険だという知識は、ほとんどの方が学んだことがありません。見た目が問題なく見えるのに病院へ行こうと考えるほうが、むしろ難しいものです。知らなかったから来られなかったのであって、悪かったわけではありません。そして、遅れたからといってできることがなくなるわけでもありません。今からでもお越しいただければ、その時点で最善の選択肢を探します.
当院の診療室の症例を二例
10代後半の男子学生。前歯がやや前方へ押し出されたまま、三日後に来院されました。すでにその部位に血が凝固しており、手で押し戻すのは容易ではありませんでした。元に戻して固定はできましたが、当日にお越しであればはるかに容易だった状況です. 数日の違いが、治療の難易度を変えます。
30代前半の女性。ぶつけた前歯がぐらつきも痛みもなく、そのまま過ごされていましたが、八か月ほど後にその歯が黒ずんで変色して来院されました。神経がゆっくりと死んでいったケースでした. 当時は症状がなくても、神経は後から結果が現れます。
患者さんにぜひ覚えていただきたい5つのポイント
- 抜けても折れてもいなくても、受診が必要です。歯ぐきの中の歯根膜や神経が傷ついている可能性があります。
- ずれた歯は、できるだけ当日のうちに元へ戻す必要があります。凝固した血がたまると、はるかに複雑になります。
- 骨内に陥入した歯は揺れないため、かえって誤解しやすいです。損傷としては最も重い部類です。
- 無理に触ったり押し戻したりしないでください。止血だけして歯科へお越しください。
- 数か月後の検診を必ず守ってください。神経は後から死ぬことも、回復することもあります。
ソウルBD歯科 院長、ムン・ソクジュン(文錫俊)です。「抜けていないから大丈夫だろう」と見過ごして、数か月後に変色した歯で来院される方が多いため、この文章をぜひ残しておきたいと思いました。
参考文献
この記事の医学的主張は以下の論文に基づいています。DOIをクリックすると原文に移動します。
-
1
36(4):314–330 DOI: 10.1111/edt.12578