歯が事故で丸ごと抜けたとき、その場でどうすればよいですか

抜けた歯を水で洗ってお持ちになったなら — それが歯を救えなくする最初の誤りです
ある夕方、子どもが遊んでいて転び、前歯が抜けたと親御さんが慌てて来院されました。歯はティッシュに丁寧に包まれており、「土が付いたので水道水で綺麗に洗いました」とおっしゃいました。残念ながら、その二つ、乾いたティッシュと水道水は、歯が助かる確率を大きく下げてしまう行為です。私はこうした場面に季節ごとに何度も出会います。だからこそ、この文章を書いています。
歯の外傷は一瞬で起こり、その場での数分が結果を左右します。覚えておいていただきたいのは三つです。第一に、歯が丸ごと抜けたときその場ですぐにすべきこと。第二に、戻せなかった場合の保存と搬送のしかた。第三に、子どもの乳歯と大人の歯は違うという点です。応急の話ですので、結論を先に短くお伝えします。 乾かさないで、牛乳に、できるだけ早く.この三つが要点です.
混乱しやすいので、用語から揃えておきます.
歯の完全脱臼(avulsion): 衝撃で歯が根ごと歯ぐきから丸ごと抜け落ちた状態。歯の外傷の中でも最も時間との勝負になる緊急事態です.
歯が丸ごと抜けました。今すぐ何をすればよいですか?
最良の処置は特別な器具ではなく時間です。大人の歯(永久歯)が抜けた場合は、可能な限りその場で元の穴にすぐ戻すのが最善です.
細胞の話を少しだけします。根の表面には、歯を骨に結び付ける薄い歯根膜の細胞が付着しています。この細胞が生きていてこそ、歯は再び安定します。ところが、この細胞は乾くと急速に死んでしまいます。国際的な外傷治療ガイドラインによれば、歯が口の外で乾いたまま約30分経過すると、この歯根膜細胞の大半は生存できません 1. ですので「どれだけきれいに洗ったか」よりも「どれだけ乾かさず、どれだけ早く」がはるかに重要です.
抜けた歯が助かるかどうかを最も強く左右するのは、どれだけきれいに洗ったかではなく、口の外で乾いたままどれくらいの時間が経ったかです.

抜けた永久歯は、その場でこうしてください(順番どおりに)
慌てた場面でも順に実行できるようにまとめました.
- 落ち着いて歯を探し、白い歯の頭(クラウン)部分だけを持ってください— 白い噛む面(クラウン)だけを持ち、根には絶対に触れないでください。根を触ると歯根膜の細胞がつぶれてしまいます.
- 土が付いていれば、牛乳・生理食塩水・唾液で数秒だけやさしくすすいでください— こすったり、石けんで洗ったり、ブラシでこすらないでください。付着している組織ははがしてはいけません.
- 可能であれば、その場で元の穴に戻してください— 向きを合わせ、やさしく押し込んでください。大人の歯であれば、ご自身で戻すことが推奨されます.
- ガーゼやハンカチを噛んで固定してください— 歯が位置に落ち着くよう支えます.
- どうしても戻せない場合は、牛乳に浸して保存してください— 水や乾いたティッシュは不可です。理由は下でご説明します.
- 30分から1時間以内に歯科か救急外来へ行ってください— 1分でも早い対応が重要です。必ず歯をお持ちください.
- お子さんの乳歯であれば、戻さずに歯科へ行ってください— 乳歯は再植しません.
抜けた歯は、どう保存して持って行けばよいですか?
元に戻せなかった場合、保存方法が歯の運命を分けます。何に入れるかで、歯根膜の細胞がどれだけ持ちこたえられるかが変わります.
| 保存方法細胞の保護いつ使うか | ||
| 牛乳 | 良い — 酸度・塩分が細胞に適している | 最も推奨。自宅・コンビニで入手しやすい |
| 唾液(頬の内側に挟んでくわえる) | 普通 — 乾燥は防げます | 牛乳がないとき。飲み込むおそれのあるお子さまには禁止 |
| 生理食塩水 | 普通 | 牛乳がなく、生理食塩水がある場合 |
| 水・乾いたティッシュ | 悪い — 細胞を傷つけて乾燥させます | 使わないでください |
まとめると、最も現実的な正解は牛乳です。牛乳がない場合は、患者さまの頬の内側に挟んでくわえて持ってくる方法もありますが、飲み込む可能性がある小さなお子さまには危険ですので、コップの牛乳に浸して持ってきていただくのが安全です。
なぜ水で洗ってはいけないのですか?
ここで最もよくある思い込みを正します。「抜けた歯は流水でよく洗って持って行けばよい」— これは半分も正しくありません。
水道水は根の表面の細胞にとって薄すぎる環境で、細胞内外のバランスが崩れ、細胞が急速に破裂して死んでしまいます。きれいにしたい気持ちが、かえって助かるはずの細胞を殺してしまうのです。だから歯は洗う対象ではなく、乾かさないように守る対象です。土が付いているなら、牛乳や生理食塩水に数秒浸してやさしく揺らす程度で十分です.
もう一つ、正したい思い込みがあります。「抜けた歯はどうせ使えないから、そのままインプラントにすればよい」という考えです。そうではありません。とくに成長期のお子さまは、天然歯を救うほうがその後の骨や歯ぐきの発達にずっと有利です。再植のチャンスを自ら捨てないでください。
子どもの乳歯が抜けたときも同じですか?
ここでは大人の歯と子どもの乳歯は対応が異なります。乳歯は元に戻しません。
乳歯を無理に戻すと、歯ぐきの中で育っている永久歯の芽を刺激し、かえって傷つけてしまうことがあります。ですから、お子さまが乳歯をぶつけて脱落したら、戻そうとせず、出血している場合はガーゼで圧迫止血をしてから歯科へお越しください。破片が残っていないか、永久歯の芽が傷ついていないかの確認が必要です。年齢や乳歯か永久歯かがわからない場合は、ひとまず乾かさないよう牛乳に浸してお持ちいただければ、歯科で判断します。
歯が欠けたり割れたりした場合は?
歯が丸ごと抜けたのではなく、一部が欠けたり割れたりした場合は、完全脱臼ほど時間は切迫しません。それでも、欠けた破片を牛乳や生理食塩水に入れてお持ちいただくと、再接着の助けになることがあります。ただし、破折面の中央から出血が見えたり、しみる痛みが強い場合は神経が露出している可能性があるため、できるだけ早く受診してください。
その場でうまく対処できなかったと自分を責めないでください
歯が抜けたお子さまを連れて来られる保護者の方は、ほとんど例外なく「水で洗ってしまったのがいけなかったですよね」「もっと早く来ればよかったのに」と自分を責められます。そんな必要はありません。
この応急処置は、多くの人が学ぶ機会のない知識です。実際の調査でも、教師・保護者の多くが方法を知らず再植をためらうという結果が出ています。知らなかっただけで、間違えたわけではありません。そして、すでに起きてしまったことより、これからの対応が大切です。遅れたからといってあきらめず、乾かさないよう牛乳に浸して、できるだけ早くお越しください。
当院の症例を2例
10代前半の男の子。運動中に前歯が丸ごと抜けましたが、そばにいたコーチがすぐに牛乳に浸し、20分で連れて来てくれました。乾いていた時間が短かったため、その場で再植して固定できました。 迅速な判断と牛乳での保存が歯を救った症例です。
30代の成人患者さま。転倒で抜けた歯をティッシュに包み、2〜3時間後に来院されました。乾燥時間が長く予後は不利でしたが、それでも再植してできるだけ長く使うことを目標に治療を開始しました. 完全な回復が難しい場合でも、再植を試みること自体が時間を稼ぐ選択になります。
患者さまに必ず覚えていただきたい5つのポイント
- 大人の歯が丸ごと抜けたら、その場ですぐに元に戻すのが最善です。毎分が重要です。
- 歯冠部だけを持ち、根は触らないでください。こすったり水で洗ったりしないでください。
- 戻せなければ牛乳に浸してお持ちください。水・乾いたティッシュは細胞を死なせます。
- お子さまの乳歯は戻さないでください。圧迫止血をして歯科へお越しください。
- 知らなかったからできなかった、それは過ちではありません。遅れていてもあきらめず、牛乳に浸して急いでお越しください。
ソウルBD歯科 ムン・ソクジュン(文錫俊)院長です。歯が抜ける事故は予告なく起こりますが、その瞬間に「乾かさない、牛乳に、急いで」という一文だけ覚えておいていただければ、その歯を救える可能性があります。
参考文献
この記事の医学的主張は以下の論文に基づいています。DOIをクリックすると原文に移動します。
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36(4):331–342 DOI: 10.1111/edt.12573