顎関節(TMJ)の痛みは、理学療法と顎の運動でどこまで良くなりますか

顎関節(TMJ)の痛みはとにかく休むべき? — むしろ動かしたほうが良くなる場合
30代中盤の患者さまがこうおっしゃいました。「院長先生、顎が痛くて1カ月間、硬い物も食べず、できるだけ使わないようにしているのに、良くなるどころかかえってこわばってきました。私、何か間違っているのでしょうか?」 私はこうお答えしました。「間違ってはいません。ただ、『休めること』だけでは不十分な時期に入ってこられたようです。」
これまで本シリーズで顎関節(TMJ)のお話を三回しており、毎回「保存的治療が先」と申し上げてきました。ところが、その保存的治療が具体的に何かは、まだ扱っていませんでした。今回、患者さまにぜひ覚えていただきたい点は三つです。第一に、顎関節(TMJ)の痛みに運動と理学療法が本当に役立つのか。第二に、休むべき時期と動かすべき時期をどう分けるのか。第三に、自宅で無理なくできることと、始める前にまず受診すべき場合です。
まず用語を整理しておきます。
顎関節(TMJ)の運動療法(exercise therapy): 咀嚼筋と顎関節(TMJ)の痛みを軽減し口の開きを広げるため、決められた顎の動きを痛みの出ない範囲で反復する保存的治療です.
顎関節(TMJ)の痛みに運動は本当に効果がありますか?
まずエビデンスからお伝えします。結論として、効果はあります。ただし万能ではありません。
複数研究を統合したメタ分析では、運動療法が顎関節障害の患者さまの痛みを減らし、口の開きの最大範囲を広げるのに有効とまとめられています 1. さらに、別の大規模な総合研究でも、顎の運動と手で行う徒手療法が、痛みと口の開きの改善に中等度の効果を示しました。ただし同じ研究は、エビデンスの質に制限がある点も併せて指摘しています 2.
率直に申し上げると、運動がすべての方に劇的な効果をもたらすわけではなく、最適な強度や回数もまだ明確ではありません。とはいえ、副作用が少なく自分で取り組める点から、たいてい最初に勧められる方法です。

では、痛いときは休むべきでしょうか、それとも動かすべきでしょうか?
ここで、患者さまが最も混同しやすい通念を押さえます。「顎が痛ければ無条件に休むべきだ」— 半分だけ正解です。
急に強く痛む急性期には、関節と筋肉を休ませるのが正解です。硬い食べ物や大きな開口は避け、数日間は落ち着かせます。しかし、痛みがある程度おさまった回復期まで使わずにいると、筋肉がさらに固まり、口の開きが狭くなります。この時期には、むしろ痛みを誘発しない範囲で少しずつ動かすことが回復を助けます。
顎関節(TMJ)の痛みが良くなるかどうかを最も強く左右するのは高価な機器ではなく、痛みを起こさない範囲で顎を少しずつ再び動かしていくことです。休めることと動かすことは対立ではなく、順番の問題です。
ご自宅でできる顎の運動・セルフケア6つ
回復期に一般的にご案内する方法です。いずれも、痛みを誘発しない範囲で、無理なく行うのが原則です。
- 口をゆっくり大きく開ける— 鏡を見ながら歪まないように、痛みのないところまでゆっくり開け閉めします。
- 左右へやさしく動かす— 下顎を左右へゆっくり移動させ、関節の動きを回復させます。
- 軽い抵抗運動— 顎の下や横に指を軽く当て、押し負けない程度にそっと力をかけながら開け閉めします。
- 舌の位置をゆるめる— 舌先を上あごの前方に軽く当て、上下の歯は接触させず、咀嚼筋の緊張を緩めます。
- 姿勢チェック— 頭を前に突き出すストレートネック姿勢は顎の筋肉の緊張を高めます。モニターの高さと座り方を見直します。
- 温めと併用— 運動前に温めて筋肉をほぐすと、動きがスムーズになります。
ただし、急に口が開かなくなる急性のロックがある場合、外傷の直後、または痛みが強くなる場合は、自己運動より先に受診してください。
痛みが筋肉由来か関節由来かで違いますか? — 二つのケースの比較
顎関節(TMJ)の痛みは、大きく咀嚼筋から来る痛み(筋肉性)と、関節そのものから来る痛み(関節性)に分かれます。アプローチが少し異なります。
| 比較項目筋肉性の痛み(咀嚼筋)関節性の痛み(関節そのもの) | ||
| どんな感じ? | 頬やこめかみが重だるく、朝に強いです | 耳の前の顎関節(TMJ)がズキッと痛み、開閉時に痛みます |
| よくある背景です | 食いしばり、筋肉の緊張、ストレスなどです | 顎関節(TMJ)の関節円板の問題、関節の炎症です |
| 運動のポイントです | リラックスと姿勢の改善を中心にします | 痛みの出ない範囲での可動運動を中心にします |
| 併せて行うことです | 温め(温罨法)と習慣の修正です | 無理な開口を避け、必要時は受診します |
実際には両者が混在していることが多いので、自己判断が難しければ、診療室で見分けてもらうのが正確です。
私の姿勢が悪くてストレスが多いせいで、こうなったのでしょうか?
診療室で「私、姿勢が悪くて敏感だからこうなったんですよね。私のせいですよね」と自分を責める方が多いです。そんな必要はありません。
顎関節(TMJ)の痛みは、姿勢やストレスだけで生じるのではなく、関節の構造、筋肉の習慣、心理的要因が絡み合った結果です。ですから「自分の性格のせい」と決めつけることはできません。ただし、姿勢や食いしばりの習慣は原因というより、これから患者さまご自身が変えて回復を助けられるポイントです。自責の対象ではなく、管理の対象だという意味です。
当院の症例をふたつご紹介します
30代半ばの女性患者さま。頬とこめかみの重だるい筋性の痛みで、ひと月のあいだできるだけ顎を使わずに過ごして来院されました。休むだけではかえってこわばった状態でした。リラクゼーション運動と姿勢の是正、軽い可動運動を併用すると、数週間にわたり痛みが軽減しました。 休む時期と動かす時期を見極めることが重要だった症例です。
40代前半の男性患者さま。関節に痛みがあり、開口も制限された状態で、物理療法と自宅での運動を併用されました。以前のように完全には開きませんでしたが、痛みが減り、食事がぐっと楽になりました。 完全な回復よりも、痛みの軽減と機能の回復を現実的な目標とすることが多いです。
患者さまにぜひ覚えていただきたい5つのポイントです
- 顎関節(TMJ)の痛みには、運動と物理療法が有用です。ただし万能ではなく、エビデンスの質には限界があります。
- 急性期は休み、回復期は動かしましょう。続けて使わないでいると、筋肉はさらにこわばります。
- 運動は痛みを生じさせない範囲で無理なく行います。
- 急性のロッキング・外傷直後・痛みが増している場合は、自己流の運動の前にまず受診を受けてください。
- 姿勢と習慣は、自分を責める対象ではなく、管理していく対象です。
ソウルBD歯科のムン・ソクジュン(文錫俊)院長です。顎をいたわるあまり全く使わず、かえってこわばった状態で来院される方々に、回復は止めることではなく慎重な動きから始まるのだとお伝えしたいと思いました.
参考文献
この記事の医学的主張は以下の論文に基づいています。DOIをクリックすると原文に移動します。
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37(4):443–461 DOI: 10.1177/02692155221133523
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2
12(3):788 DOI: 10.3390/jcm12030788