顎関節(TMJ)障害、口を開けると痛みや音がするときはどうしたらいいですか

顎で「カクッ」と音がします — 治療が必要な音と、そのまま様子を見てよい音
先日、30代前半の患者さまがこわばった表情で来院されました。「院長先生、数カ月前から口を開けると顎で“カクッ”と音がします。インターネットで調べたら顎関節が壊れるとあって、私、手術が必要でしょうか?」夜も眠れないほど不安だったそうです。私はまずこうお伝えしました。「音がするからといって、すべて治療の対象になるわけではありません。本当に大事なのは音そのものではなく、ほかのサインです。」
顎関節(TMJ)のお話を新たなテーマとして始めます。覚えていただきたいのは三つです。第一に、顎で鳴る音の正体と、その頻度です。第二に、様子を見てよい音と、受診すべきサインの見分け方です。第三に、治療が必要なときに何から始め、何は避けるべきかです。
まず用語を整理します。
顎関節(TMJ)障害(TMD): 口の開閉を担う関節と、その周囲の咀嚼筋に生じる痛み・音・可動域の制限を総称する名称です。単一の病気ではなく、原因や現れ方がさまざまな状態をまとめた大きな“傘”のような概念です。
顎で音がするのは異常なのでしょうか?
まず最初に安心していただきたい点です。顎の音は、思っているよりずっと一般的です。
顎関節(TMJ)の中には、骨と骨の間に薄い軟骨のクッション(関節円板)が挟まっています。口を開けたり閉じたりすると、このクッションが一緒に滑りますが、いったん位置が少しずれて元に戻る瞬間に「カクッ」という音がします。ドアを開けるとき、蝶番が一度ひっかかって乗り越える感じに似ています。
数字でお示しします。世界の研究を総合すると、成人・高齢者の約 31%、小児・思春期の約 11%が顎関節(TMJ)障害を有し、その中で最も一般的だったのが、口を開けたときに音がするこのクッションの問題(関節円板の転位)でした 1。成人では三人に一人ということです。ですから、顎で音がするからといって、あなただけが特別におかしいわけではありません。

では、音がすれば必ず治療が必要なのでしょうか?
ここで、患者さまがよくお持ちの誤解を一つ指摘します。「顎で音がするのは大問題で、早く治療すべきだ」— 半分だけ正解です。
音だけで、痛みもなく、口も十分に開くなら、多くは積極的な治療をせず経過を見ても大丈夫なことが多いです。音そのものを完全になくすのは難しく、音を消そうとして無理な治療を行うほうが、かえって危険な場合があります。
顎で音がするからといって、すべてが治療の対象ではありません。本当に見逃してはいけないのは音ではなく、急に口が開かなくなる、痛みが次第に強くなるといった変化です。音はよくある現象で、注意すべきなのは、その音に痛みや引っかかりが伴うかどうかです。
自宅で気づける危険サインは?
様子見でよい場合と受診すべき場合を分ける基準をまとめました。次のうち一つでも当てはまるなら、受診をおすすめします。
- 口が急に以前のように開かなくなったとき— 縦に指二〜三本が入らないほど開けにくければ、クッションが引っかかってロッキングしている可能性があります。
- 音に痛みが伴うとき— 音だけのときと違い、開閉時に痛むなら炎症を伴っている可能性があります。
- 口を開ける途中で片側に大きく曲がるとき— 左右の関節の動きがずれているサインです。
- 朝、顎がこわばり、こめかみ・頬が張るとき— 就寝中に食いしばりや歯ぎしりをしている可能性があります。
- 噛むとき、あくびのときの痛みがだんだん強くなるとき— 時間とともに悪化する痛みは、様子見で済ませてはいけません。
- 耳の前あたりが腫れる、または熱感があるとき— 関節そのものの炎症が疑われます。
- 頭痛・耳の詰まった感じが顎の症状と一緒に出るとき— 咀嚼筋の緊張が周囲へ波及していることが多いです。
逆に、音だけで痛みもなく、口もよく開くなら、慌てて何かをするより、まずは以下の生活管理から始めてみてもよいでしょう。
受診する前に、家でできることはありますか?
診療室で実際に最初にご案内するのは、薬や装置ではなく、顎への負担を減らす生活習慣です。次に挙げるのは顎関節(TMJ)に負担をかける習慣ですので、逆の行動を心がけてください。
- 硬くて噛み応えのある食べ物を控えます— イカ、乾いたナッツ、氷を噛むこと、硬い肉は症状がある間は一時的に避けます。
- 大きく口を開けないようにします— あくびのときは手で顎を支え、丸ごとの大きなリンゴにかぶりつく動作は避けます。
- 歯の食いしばり・歯ぎしりに気づきます— 日中は上下の歯は本来、接触しないのが正常です。触れているなら、そっと離す習慣をつけます。
- 片側だけで噛まないようにします— 両側で均等に噛みます。
- 頬杖・うつ伏せ寝を避けます— 片側の関節に負担がかかり続けます.
- だるいときは温かい湿布を当てます— 咀嚼筋の緊張をほぐします。
このようなセルフケアだけでも、多くの方は数週間で楽になります。
治療が必要なら何から始めますか? — 元に戻せる治療 vs 元に戻せない治療
ここは診療室で必ず知っておいていただきたいポイントです。顎関節(TMJ)の治療には、後から元に戻せる方法と、一度行うと元に戻せない方法があります。国際的な診療ガイドラインの原則は明確です。元に戻せる方法をまず十分に行う、ということです。
| 比較項目元に戻せる治療(可逆的)元に戻せない治療(不可逆的) | ||
| 何を? | 生活習慣の是正、咀嚼筋の運動・物理療法、鎮痛・消炎剤、就寝時に装着する咬合安定装置(スプリント) | 歯を削って咬合を変える処置、顎関節(TMJ)の手術、顎関節(TMJ)だけを目的とした矯正 |
| いつ? | ほとんどの場合、第一段階として行います。 | 保存的治療に反応がなく症状が強い、まれな場合に限ります。 |
| 患者さまの負担 | 元に戻せるため、負担が少ないです。 | 元に戻せないため、慎重な判断が必要です。 |
| エビデンスは? | 初期治療として推奨されています。 | 多くの顎関節(TMJ)障害では推奨されていません。 |
国際的な診療ガイドラインは、顎関節(TMJ)障害の治療を保存的で元に戻せる方法を中心に行い、歯を削って咬合を調整したり顎位を変える不可逆的治療は、ほとんどの場合は勧めないとまとめています。実際、2年から10年まで追跡した複数の研究で、患者の85~90%以上が保存的治療のみで症状が改善しました 2. ですので、もしどこかの病院で音だけする顎に対して、いきなり歯を削るなどの大きな処置を勧められたら、別の意見をもう一度聞いてみることをおすすめします.
もしかして、歯を食いしばったせいでこうなったのでしょうか?
診療室でも「ストレスのときに歯を強く食いしばったから、こうなったんですよね?私のせいですよね?」と自分を責める方が多いです。そんな必要はありません。
顎関節(TMJ)障害は一つの原因で起こる病気ではありません。歯の食いしばりの習慣、ストレス、関節自体の構造、姿勢、さらには遺伝的な傾向まで、さまざまな要因が重なって現れます。ですから「自分がこれをしたから病気になった」とは断言しにくく、逆に「これさえしなければ罹らなかった」と自分を責めることでもありません。患者さまの過ちで生じたのではなく、そもそも多くの人に起こりやすい状態です。大切なのは原因を悔やむことではなく、今から顎への負担を減らすことです。
当院での症例を2つ
30代前半の女性の患者さま。口を開けると音はするものの、痛みもなく開口も良好で、とても心配されていました。確認の結果、急ぐ問題ではなかったため、硬い食べ物や大きく口を開ける動作を控える生活管理をご案内しました。数週間後「音は残っているが不便ではない」と安心されました。 音だけがある場合は、たいていはこのように経過観察で十分です。
40代半ばの男性の患者さま。毎朝顎がだるく、ある日からは指2本も入らないほど口が開かない状態で来院されました。この場合は経過を見る状況ではありませんでした。夜間の強い歯ぎしりが重なっており、咬合安定装置と物理療法で管理を始めると、開口量が回復しました。 「口が開かない」は、音がするだけとは次元の異なるサインです。
患者さまにぜひ覚えておいてほしい5つのこと
- 顎の音はとても一般的です。成人の約3人に1人の頻度ですが、音だけで痛み・引っかかりがなければ、たいていは様子を見ていて大丈夫です.
- 本当に大切なのは、音ではなく変化です.口が開きにくくなったり、痛みがだんだん強くなったり、ロックするような感じがあれば、受診してください.
- 治療は、元に戻せる方法から始めます.生活習慣の調整、筋肉のエクササイズ、夜間に装着する装置が先です.
- 音を消すために歯を削ったり大がかりな処置を勧められたら、もう一度よく考えてください.ほとんどの顎関節(TMJ)障害では推奨されません.
- 自分を責めないでください.一つの原因だけで起こる病気ではなく、これから負担を減らすことのほうが大切です.
ソウルBD歯科のムン・ソクジュン(文錫俊)院長です。顎の音で眠れずに来院される患者さまには、怖がるよりもまず、音と兆候を見分ける方法をお伝えしたいと思います.
参考文献
この記事の医学的主張は以下の論文に基づいています。DOIをクリックすると原文に移動します。
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25(2):441–453 DOI: 10.1007/s00784-020-03710-w
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