妊娠性歯肉炎、妊婦さんの半数以上が経験しますが、患者さまのせいではありません

妊娠性歯肉炎、妊婦さんの半数以上が経験しますが、患者さまのせいではありません
先週、診療室に妊娠6か月の30代前半の患者さまが定期検診で来院されました。『院長、歯みがきのたびに歯ぐきから血が出て怖いんです。妊娠して歯みがきがうまくできていないからでしょうか?』と、罪悪感に満ちた表情でお話しになりました。検診の結果、患者さまの歯ぐきの出血は歯みがきの習慣のせいではなく、妊娠中のホルモン変化が原因でした。最も意外だとおっしゃったのはこの点です。『私のせいじゃないんですか?』結論から申し上げると、妊娠中の歯肉炎は妊婦さんの半数以上が経験するよくある変化で、患者さまの歯みがきが悪くて起こるものではありません。ご相談の中でしばしば出会う自責のパターンです。
お忙しい方向けに要点から書きます。第一に、妊娠中の歯肉炎は非常に一般的です。妊婦さんの半数以上が経験します。第二に、最大の原因はホルモン変化であり、患者さまがコントロールできない部分です。第三に、それでも患者さまが直接コントロールできる部分(毎日のケア、定期受診)が結果を左右します。
妊娠性歯肉炎: 妊娠中はエストロゲンとプロゲステロンの濃度が急上昇し、同じ量のプラークにも歯ぐきがより強く反応して赤く腫れ、歯みがき時に出血する状態。通常は妊娠2か月から始まり、第1~第2三半期に最も強く、出産後におさまります.
妊娠中に歯ぐきが急に弱くなるのはなぜですか?
よくいただくご質問なので、結論からお伝えします。
妊娠中、エストロゲンとプロゲステロンの濃度は非妊娠時より数十倍に上がります。歯ぐきの組織にはこの2つのホルモンを受け取る受容体があり、妊娠中は歯ぐきがホルモンの直接的な影響を受けます。ホルモンは歯ぐきの血流を増やし、毛細血管の透過性を高めますが、これが妊娠性歯肉炎の中核的な機序です。
かみ砕いて言うと、こうです。 妊娠前と同じ量のプラークがあっても、妊娠中は歯ぐきがその刺激にずっと強く反応します。毛細血管がもろくなっているため、わずかな刺激でも出血しやすく、歯ぐきが赤く腫れて見えるのは正常な妊娠反応です。
体系的レビューでは妊娠性歯肉炎の有病率は 30~100%, 平均的に妊婦さんの約半数以上が経験すると報告されています 1. 通常は妊娠2か月ごろから始まり、第1~第2三半期に最も強く、8か月ごろから落ち着き始めます。出産後にホルモンが正常に戻れば、歯ぐきの状態も回復します.
このあたりで通念と実際が分かれます。「妊娠してから歯みがきが上手くできず、歯ぐきが悪くなった」という自責は、正確ではありません。 歯みがきを同じように丁寧にしていても、妊娠中は歯ぐきが赤くなり、出血しやすくなる可能性が高いのです。ホルモン変化が最大の原因であり、患者さまの歯みがきの努力はその上で作用します。
要点を一行でまとめると、こうです。 妊娠中に歯ぐきが赤く腫れて出血するかどうかを最も強く左右するのは、患者さまが妊娠して歯みがきがうまくできないからではなく、妊娠ホルモンが歯肉組織そのものの反応性を変えてしまうためです。

それでも、きちんと管理すればどうなりますか?
上の「有病率 30~100%」というデータを見て、「どうせ避けられない」と思われるかもしれません。そうではありません。
古い研究報告ではありますが、非常に重要なデータがあります。**妊娠開始時点で歯ぐきが清潔(プラークがほとんどなく)、妊娠中も良好な口腔衛生を維持した妊婦さんの妊娠性歯肉炎の発生率は0.03%**ときわめて低かったという結果があります。これは、妊娠開始時点ですでにプラークが蓄積し軽い歯肉炎が進行していた妊婦さんたちとは大きく異なる数値です。
このデータが患者さまに伝えるメッセージは明確です。 妊娠ホルモンは歯ぐきの反応性を高めますが、最初から歯ぐきが清潔な状態で始まれば、ホルモンだけで歯肉炎は起きないということです。つまり、妊娠前の歯ぐきの状態が最大の変数で、妊娠中の管理がその次に重要です。
この点は安心なさってください。妊娠中にすでに歯ぐきからの出血を経験しておられるなら、それは妊娠前から軽い歯肉炎があったサインである可能性が高いのです. 患者さまのせいではありません。妊娠前にほとんど歯ぐきの出血がなかったとしても、歯ぐきの深い部分に微細な炎症があった可能性があり、その部分を患者さまが鏡で確認する術はありませんでした。今から管理に集中すれば、これ以上進行しないように食い止められます。
妊娠中の歯ぐきの病気は赤ちゃんに影響しますか?
この点が患者さまが最も恐れるご質問です。率直にお答えします。
複数のメタ解析で、妊婦さんの進行した歯ぐきの病気(歯周炎)が早産・低出生体重児のリスクと関連するという報告が一貫して示されています。22件の観察研究を統合したメタ解析では、歯ぐきの病気がある妊婦さんの早産・低出生体重児の出産リスクは、そうでない妊婦さんより約2.83倍高いとされました [Vergnes JN, Sixou M, 2007, American Journal of Obstetrics and Gynecology, PMID: 17306654]. 他のメタ解析でも、同様に1.5~4倍程度のリスク増加が報告されています。
ただし、過度に恐れる前に知っておいていただきたい点があります。 妊娠中の歯ぐきの病気の治療が早産リスクを明確に下げるという証拠は、一貫していません。13件の無作為化比較試験を統合したメタ解析では、妊娠中の歯ぐきの治療が早産を統計学的に有意には減らさなかったという結果が報告されています [Polyzos NP et al., 2010, American Journal of Obstetrics and Gynecology, PMID: 21119126].
この2つのデータを総合すると、こうなります。 歯周病と早産リスクには関連がありますが、妊娠中に歯周治療を行うことで早産リスクを明確に下げられるかについては、学界でもまだ意見が分かれています。ですから、最も安全な答えは 妊娠前または妊娠第1三半期に入る前に歯ぐきの状態を前もってチェックしておくことです。
妊娠中の歯科治療、いつまで安全ですか?
当院の診療室で患者さまから最もよくいただくご質問です。
| 妊娠段階・診療可能な範囲・注意事項 | ||
| 妊娠前 | すべての診療(スケーリング、歯周治療、インプラント など) | 最も推奨される時期。妊娠を計画する際に事前チェックを |
| 妊娠初期(0~12週) | 応急処置のみ推奨(痛み・感染) | 薬剤・X-rayの曝露は最小限に。可能なら延期を |
| 妊娠中期(13~28週) | 最も安全な時期。スケーリング・歯周治療・簡単な抜歯が可能 | 患者さまの体調も最も安定します |
| 妊娠後期(29週~出産) | 応急処置のみ。診療台で長時間あおむけになるのが負担に | 妊婦さんの体位によっては血流の問題が起こる可能性 |
| 出産直後~授乳期 | 多くの診療は可能。薬剤は医師と相談を | 授乳中は薬剤の影響を確認する必要があります |
この表で患者さまにお伝えしたい要点は2つです。第一に、 妊娠中でも歯科治療を受けられる時期があります。とくに妊娠中期が最も安全で推奨されます。第二に、 妊娠前の歯ぐきチェックが最良の予防策です。
X-rayについて一つご案内します。歯科X-rayの放射線量は非常に低く、妊娠中でも鉛エプロンを着用した状態で必要な撮影は安全に行えます。ただし患者さまのご不安に配慮し、可能であれば妊娠初期は避けて妊娠中期以降に延期します。緊急時には妊娠初期でも安全に実施されます。
妊婦さんの歯ぐきケア 5つ
当院で妊娠中の患者さまにお勧めしている要点です。
- やわらかい歯ブラシ + やさしくブラッシング— 妊娠中は歯ぐきがより敏感です。硬い毛先で強く磨くと出血が悪化します。
- 歯と歯の間の清掃は毎日1回— 妊娠中ほど歯間清掃が重要です。デンタルフロスや歯間ブラシで毎日1回。
- つわり後は口をすすぐ— 嘔吐直後は胃酸が口腔内に残り、歯の表面を刺激します。すぐに歯磨きはせず、水で一度すすいでから30分ほど待って磨くのが安全です。
- 間食の回数を減らす— 妊娠中はつわりや食欲の変化で食事回数が増えがちですが、そのたびに口腔内のpHが下がり、歯ぐきと歯に負担がかかります。可能であれば規則的な食事時間を保ってください。
- 妊娠中期に定期検診を1回— 第1三半期を過ぎて第2三半期に入られたら、一度ご来院いただき、スケーリングと歯ぐきの状態チェックを受けておくと良いです.
もう一つだけ補足します。 妊娠性歯肉炎はホルモンが引き起こしますが、その結果を左右するのは、妊娠前にどれだけ歯ぐきを清潔に保てていたか、そして妊娠中に毎日のケアをどれだけ欠かさず続けられるかです.
妊娠性歯肉腫瘍とは何ですか?
患者さまが最も驚かれる臨床所見の一つです.
妊娠中、一部の妊婦さんの歯ぐきに、急に赤くて柔らかいできものが生じることがあります。これを妊娠性歯肉腫瘍(妊娠腫瘍, pregnancy granuloma)または化膿性肉芽腫と呼びます。約1.8~5%の妊婦さんに報告があり、通常は第1~第2三半期に生じます.
名前は「腫瘍」ですが 悪性ではありません.ホルモンに反応した歯ぐき組織の良性の過形成です。通常は出産後にホルモンが正常に戻ると自然に落ち着きます。ただし、あまりに大きくて日常に不便があれば、出産後または第2三半期に簡単に切除します.
妊娠中に歯ぐきに新しいできものができても、驚かないでください。受診のうえ、一度確認を受けていただければ大丈夫です.
当院の症例を2つ
30代前半、妊娠5カ月の患者さま。歯みがきのたびに歯ぐきから出血し、一部が腫れて来院されました。検査の結果は、妊娠性歯肉炎+小さな妊娠性歯肉腫瘍でした。スケーリングと口腔衛生指導を行い、腫瘍の切除は出産後に延期することに。妊婦の患者さまは「私のせいではないとわかったのが一番の慰めでした」とおっしゃいました.
30代後半、妊娠を計画中の患者さま。軽い歯肉炎があり、妊娠前にスケーリングと口腔衛生指導を終えました。妊娠後1年の定期検診でも歯ぐきの状態は安定しており、妊娠性歯肉炎の症状はほとんど出なかったとのことです. 妊娠前のチェックが最も効率的な予防です.
患者さまにぜひ覚えておいてほしい5つのポイント
- 妊娠性歯肉炎は、妊婦さんの30~100%が経験する一般的な変化です。あなただけのことではありません.
- ホルモン変化が最大の原因です.患者さまが歯みがきを間違えたせいではありません。自分を責めなくて大丈夫です.
- 妊娠前に歯ぐきを清潔な状態にしておくと、発症率は0.03%まで下がります.妊娠をお考えなら、妊娠前に一度受診しておくのが最も効率的です.
- 妊娠中の歯科診療は第2三半期(13~28週)が最も安全です.スケーリングや歯周治療は、この時期に安全に受けられます.
- 出産後にホルモンが正常へ戻れば、歯ぐきの状態も多くは回復します.ただし、妊娠中に進行した歯周病は出産後も残ることがあるため、出産後に一度チェックを受けてください.
ソウルBD歯科のムン・ソクジュン(文錫俊)院長です。妊娠中に歯ぐきから出血してもご自分を責めないでいただきたい、という思いで書きました。ホルモンは患者さまがコントロールできない部分です。患者さまがコントロールできる部分(毎日のケア、定期検診)に集中していきましょう.
参考文献
この記事の医学的主張は以下の論文に基づいています。DOIをクリックすると原文に移動します。
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Mediators of Inflammation DOI: 10.1155/2015/623427