インプラント周囲炎、患者さんの5人に1人が経験する歯ぐきの病気です

インプラント周囲炎、痛みがなく気づきにくい歯ぐきの病気のサイン5つ
先週、診療室に60代後半の患者さまが定期チェックでいらっしゃいました。7年前に別の病院で入れたインプラントで、患者さまは「何の問題もありません」とおっしゃっていました。ところが診査してみると、インプラント1本の周囲の歯槽骨がすでに半分近く溶けていました。患者さまが最初におっしゃったのは「痛くもないのに、どうして歯ぐきの病気が進んだのですか?」という言葉でした。結論から申し上げると、インプラントの歯ぐきの病気は、天然歯のそれよりも静かに進行します。私たちの診療室でも、月に2〜3人はこのような方に出会います。
まず結論を整理してから始めます。第一に、インプラントの歯ぐきの病気とは何か、そしてなぜそれほど一般的なのか。第二に、ご自宅で気づけるサインは何で、気づきにくいのはどの部分か。第三に、どの段階で見つければ簡単な処置で済み、どの段階では手術が必要になるのか、です。
インプラント周囲炎(peri-implantitis):インプラント(人工歯根)周囲の歯ぐきと歯槽骨に炎症が起こり、骨が吸収していく、いわばインプラント版の歯ぐきの病気です。痛みがほとんどないまま進行することが多く、定期チェックでのみ早期発見されます。
インプラントの歯ぐきの病気とは正確には何ですか?
最も多いご質問なので、結論からお答えします。
天然歯に歯ぐきの病気(歯周炎)があるように、インプラントにも同じ種類の炎症が起こります。大きく2つの段階に分かれます。
1段階目 — インプラント周囲粘膜炎:インプラントの周囲の歯ぐきだけが赤く腫れ、歯みがきの際に出血する段階です。歯槽骨はまだ吸収していません。天然歯でいえば軽い歯肉炎にあたります。この段階で抑えれば、シンプルなクリーニングと衛生指導で回復します。
2段階目 — インプラント周囲炎:歯槽骨が吸収し始めた段階です。この段階からは、ご本人が自覚しなくてもX-rayで明確に確認できます。進行すればインプラントが動揺し、最終的には脱落します。怖いのは、天然歯の歯ぐきの病気と違って、痛みがほとんどないことです。
最大規模のメタ解析では、インプラントをお持ちの患者さまの約 19.5%がインプラント周囲炎を有していることと示されています 1. 5人に1人という意味です。インプラントを入れている方にとって、決して珍しいことではありません。
広く行き渡った考えを一つ、ここで正しておきます。「インプラントは人工物だから歯ぐきの病気にならない」という考えは、半分だけ正しいです。インプラント本体はむし歯にはなりません。ですが、インプラントの周囲の歯ぐきと骨は、天然歯の周囲よりもむしろ歯ぐきの病気にかかりやすいのです.インプラントには天然歯にある衝撃を吸収する靱帯(歯根膜)や、歯ぐきと強固に結合する結合組織線維がないため、細菌の侵入に対する防御が弱いのです。
要点は一つです。 インプラントが動き始めた時には、すでに歯槽骨の半分が失われた後です。その前に食い止める唯一の方法は、定期チェックです。

ご自宅で気づけるサイン5つ
ここが、この文章からぜひ持ち帰っていただきたい最も重要なポイントです。
- 歯みがきのとき、その部位の歯ぐきから出血します— 最も早く現れるサインです。天然歯の歯ぐきの病気と同じです。
- その部位だけ歯ぐきが赤く腫れています— ほかの部位の歯ぐきはピンク色なのに、インプラントの周囲だけ赤いのが特徴です。
- その部位から嫌なにおいがします— ご本人はご自分の口臭に気づきにくいものです。そばにいるご家族が先に気づくことが多いです。
- 歯ぐきがだんだん下がってきたように見えます— インプラントの灰色の金属部分がより見えるようになります。歯ぐきが退縮したサインです。
- 歯ぐきを軽く押すと、うみや滲出液がにじみます— 進行した段階のサインです。この段階なら、その日のうちに受診してください。
ご自宅では気づきにくいポイント
上の5つがすべてなくても、歯ぐきの骨(歯槽骨)は溶けている可能性があります。インプラント周囲炎の最も危険な特徴です
- 痛みがほとんどありません— 天然歯は歯ぐきの病気が進むとしみたりズキズキしますが、インプラントには神経がないため痛みがほとんど出ません
- 歯ぐきの骨が溶けているかどうかはX-rayでしか確認できません— 患者さまが鏡では見えない部位です
- インプラントはしっかりしているように見えます— 骨が半分ほど溶けるまで、ぐらつきが出ないこともあります
だからこそ、定期チェックがインプラントの寿命を左右する本当の理由です。ご自身では気づけない段階が、すでに進行していることがあるからです
インプラント周囲炎を悪化させる6つの要因
複数のメタ分析や大規模研究を総合すると、インプラント周囲炎を引き起こしたり進行させたりする主な要因は次のとおりです
- 喫煙— 最も強い単独要因です。歯ぐきの血流を減らし、免疫反応を弱めます
- 天然歯の歯周炎の既往歴— かつて天然歯で歯ぐきの病気があった方は、同じ菌がインプラントにも移ります
- コントロール不良の糖尿病— 歯ぐきや骨の回復速度が低下します
- 歯ぐきの厚みが薄い部位— インプラント周囲のしっかりした歯ぐき(角化歯肉)が不足していると、歯ぐきの病気のリスクが約2.78倍に上がるというメタ分析結果があります [Tavelli L et al., 2023]
- 食べ物が挟まりやすい補綴物の形態— 補綴物の周りが清掃しにくい形だと、リスクが高まります
- 定期チェックの未受診— 患者さま側の最大の変数です。5人中4人が20年後も問題なく使えているインプラントと、7年でだめになるインプラントの差は、ほぼ定期チェックの受診状況で決まります
過度に怖がる必要はありません。ご自身を「歯みがきが上手にできないから歯ぐきの病気になった」と責める必要はありません。上の6つのうち、歯みがきだけでコントロールできるのは一部です。歯ぐきの厚みや補綴物の形といった要因は、患者さまのせいではありません。今できるのは、定期チェックを欠かさないことです
インプラント周囲粘膜炎 vs インプラント周囲炎、どの段階で食い止めるべきでしょうか?
| 比較項目1段階: インプラント周囲粘膜炎2段階: インプラント周囲炎 | ||
| 歯ぐきの状態 | 赤く、やや腫れます | 赤く腫れ、後退します |
| 歯みがき時の出血 | あります | あります。自発的な出血も起こり得ます |
| 歯ぐきの骨の状態 | 正常です | 溶け始めています |
| 痛み | ほとんどありません | ほとんどありません |
| 自覚のしやすさ | 出血で気づけます | ご自身で気づくのは非常に難しいです |
| 治療 | 単純な洗浄・口腔衛生指導 | 非外科的処置~外科的処置 |
| 回復の可能性 | ほぼ完全に回復 | 一部は回復しますが、溶けた骨は元には戻りません |
この表でお伝えしたい要点はただ一つです。 1段階で見つけて対処すれば単純な処置で完全に元に戻せますが、2段階に進んでしまうと、溶けた歯ぐきの骨は元に戻りません。1段階と2段階の差は、歯ぐきの骨が溶け始めているかどうかであり、その境目は患者さまには自覚できません。
当院の実例を2つ
50代後半の女性の患者さま。8年前に埋入したインプラントで、定期点検を一度も欠かさず受けておられました。5年目の検診で、歯みがき時の出血が一部で見つかり、粘膜炎の段階で捉えて2回の洗浄と口腔衛生指導で回復しました。今もそのインプラントを問題なくお使いです.
60代後半の男性の患者さま。7年前に埋入したインプラントが揺れ始めたとのことで来院されました。定期点検は埋入直後に一度行ったきりで、その後は受けていなかったとのこと。検査の結果、歯ぐきの骨が約 60% 溶けていました。1本は外科的処置で保存できましたが、もう1本は再施術が必要でした. 結果を分けたのは、インプラントの品質ではなく定期点検でした。
患者さまにぜひ覚えていただきたい5つのこと
- インプラント周囲炎は、インプラントをお持ちの方 5人に 1人が経験する一般的な歯ぐきの病気です。あなただけの問題ではありません。
- 痛みがほとんどないまま進行します。患者さまには自覚できない段階が、すでに進行している場合があります。
- ご自宅で気づけるサインは、歯みがき時の出血・歯ぐきの腫れ・におい・歯ぐきの退縮・膿です。ひとつでも当てはまる場合は、定期点検の予定を早めてください。
- 粘膜炎の段階で捉えられれば単純な処置で完全に回復しますが、歯ぐきの骨が溶け始めた後は、溶けた骨は元に戻りません。
- 定期点検は6カ月に1回— インプラントの寿命を左右する唯一の行動です。歯みがきよりも定期点検のほうが大切です。
ソウルBD歯科 ムン・ソクジュン(文錫俊)院長です。患者さまが「何の問題もない」と感じているその7年こそ、インプラントにとって最も危険な時期になり得ることをお伝えしたく、書きました。
参考文献
この記事の医学的主張は以下の論文に基づいています。DOIをクリックすると原文に移動します。
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BMC Oral Health DOI: 10.1186/s12903-022-02493-8