部分入れ歯・総入れ歯は、ブリッジ・インプラントと何が違うのでしょうか

下の入れ歯がたびたび浮くのは、慣れないせいではありません
60代後半の患者さまが、下の総入れ歯を手に持って来院されました。「先生、これ、食事のたびにガタついて浮いてしまいます。最初は誰でもそうだから我慢しろと言われましたが、何か月もこのままです。私だけ特別に慣れないのでしょうか?」私はこうお伝えしました。「慣れの問題ではない可能性があります。下の入れ歯はもともと浮きやすく、それを支える方法が別にあります。」
前回の2本では、歯を1本失った場合(ブリッジ・インプラント)と、部分的に傷んだ場合(部分修復)を扱いました。今回は、複数本、あるいはすべて失った場合です。要点は3つに整理できます。第一に、入れ歯が固定式治療と何が違うのか。第二に、なぜ下顎の総入れ歯がとりわけ不安定なのか。第三に、少数のインプラントを組み合わせるだけで、その問題が大きく変わるという点です。
混乱しやすいので、まず用語をそろえておきます。
入れ歯(義歯・可撤式補綴):複数の失った歯を、人工の歯が付いた装置で補い、自分で着脱して使う補綴です。歯が残っていれば部分入れ歯、1本もなければ総入れ歯と呼びます。
入れ歯はインプラントと何が違うのでしょうか?
最大の違いは、固定されているか、自分で着脱するかです。2つの方法の特徴を比較します。
| 比較項目 入れ歯(可撤式) インプラント(固定式) | ||
| どんな場合に? | 複数〜全て欠損、骨量・全身状態の条件が厳しいとき | 骨量・健康状態の条件が満たされ、固定式を希望するとき |
| 噛む力・安定性 | 天然歯より弱く、動揺することがある | 天然歯に近い堅牢さ |
| ケア | 外して清掃し、歯ぐきを休ませる | 天然歯と同様にケア |
| 骨・手術 | 手術なしでも可能 | 手術と治癒期間が必要 |
| 費用・期間 | 相対的に低く、短期間 | 相対的に高く、期間が長い |
入れ歯の利点は、手術なしで、複数の欠損でも比較的短期間で作れる点です。その代わり、固定式に比べて咬合力と安定性が劣り、取り外してケアする手間があります。

なぜ下顎の総入れ歯はとくに浮きやすいのでしょうか?
ここが本稿の核心です。下顎の総入れ歯が不安定なのは、患者さまのせいではなく構造上の理由です。
上顎の総入れ歯は口蓋全体に広く密着し、ある程度の吸着が得られます。これに対し、下顎の総入れ歯は舌がスペースを占め、頬や唇の筋肉が四方から動き、支えとなる面積も狭いのです。さらに、抜歯後の歯槽骨は年々ゆっくりと吸収されていきます。土台が低くなるため、入れ歯は次第にゆるくなります。
総入れ歯の適合を最も強く左右するのは、入れ歯の出来栄えそのものではなく、その下の歯槽骨がどれだけ残っているかです。ですから、どれほど精密に作った下顎の入れ歯でも、時間がたてば再調整が必要になり、もともと骨が大きく減っている方はさらに浮きやすくなります.
では打つ手はないのでしょうか — インプラント・オーバーデンチャー
ここで一般的な通念を正しておきます。「入れ歯はインプラントに劣る昔の方法だ」— それは半分だけ正しい見方です。
入れ歯とインプラントは対立するだけでなく、組み合わせることもできます。下顎にインプラントを2本だけ埋入し、その上に入れ歯をボタンのようにパチンと留めて固定する方法です。これをインプラント入れ歯(オーバーデンチャー)と呼びます。取り外しの利便性はそのままに、浮きやすさや揺れの問題を大きく減らせます。
これは個人の意見ではなく、古くからある国際的な勧告です。専門家の合意では、下顎の総入れ歯に対する第一選択の標準治療として、インプラント2本を用いたオーバーデンチャーを推奨しています 1。お口全体をインプラントで治すのが難しい方にとっても、2本だけで安定性と咀嚼満足度を大きく高められる現実的な折衷案です。
部分入れ歯(義歯)にすると、かかる歯が傷んだりしませんか?
良いご質問です。部分入れ歯(義歯)は残っている天然歯にバネ(クラスプ)をかけて支えますが、そのバネがかかる歯(支台歯)の管理こそが要です。
バネの周囲には食べかすや細菌がたまりやすいです。管理を怠るとその支台歯にむし歯ができたり歯ぐきが悪化し、歯が揺れ始めます。実際、支台歯の5年生存率は概ね91~95%ですが、管理状態に大きく左右されます。ですので、部分入れ歯(義歯)をお使いの方ほど、そのかかる歯の周囲をより丁寧に磨いてください。
入れ歯(義歯)を長く・快適に使うための7つのポイント
- 毎日外して専用の洗浄剤で洗いましょう— 一般の歯みがき粉で強くこすると表面に傷がつき、細菌が付きやすくなります.
- 夜は外して歯ぐきを休ませ、水に浸けて保管しましょう— 乾くと形が変形します.
- 部分入れ歯(義歯)がかかる天然歯を特に丁寧にケアしましょう— むし歯・歯周病が始まりやすい部位です.
- ゆるくなっても市販の接着剤でごまかさず、調整を受けてください— 無理に使うと歯ぐきが傷みます.
- 痛いところが出たら我慢せずに調整しましょう— 圧迫された部分がただれて潰瘍になります.
- 定期検診で歯ぐきの骨と適合を確認しましょう— 骨は少しずつ減り続けます.
- 数年ごとに再調整や作り替えが必要になることがあります— これは失敗ではなくメンテナンスです.
総入れ歯にすると以前のように噛めますか?
正直にお伝えします。「入れ歯(義歯)にすれば元の歯のように噛める」— 半分も当てはまりません。
総入れ歯の噛む力は天然歯には大きく及びません。特に下顎では安定性が低く、硬い・弾力のある食べ物は難しいです。最初は発音や違和感に慣れる時間も必要です。これは入れ歯の作りが悪いのではなく、取り外し式が本来もつ限界です。だからこそ最初からこの限界をお伝えします。期待値を正しく合わせることで落胆が減り、必要ならオーバーデンチャーといった補完策も検討できるからです。
歯をすべて失ったことが恥ずかしくて自分を責めてしまうなら
入れ歯(義歯)になると、「ケアができずこの年で歯をすべて失ってしまった」と恥ずかしがったり自分を責めたりする方が多いですが、その必要はありません。
歯を失う背景には歯周病、長い年月、全身疾患など複数の要因が重なります。誰かのせいだと一概には言えません。そして入れ歯(義歯)は恥ずかしい選択ではなく、失われた機能を取り戻す立派な治療です。大切なのは過去を責めることではなく、今残っている歯ぐきと骨を大切にしながら快適に使う方法を見つけることです。
当院の症例を2つご紹介します
60代後半の女性。下の総入れ歯がたびたび浮いて食事がつらいと長年お困りでした。下顎にインプラントを2本埋入してオーバーデンチャーに変更したところ、入れ歯(義歯)がしっかり固定され、噛みやすさが大きく改善しました。 下の入れ歯(義歯)の不安定さは慣れの問題ではなく構造の問題であり、2本のインプラントがそれを解決しました。
70代前半の男性。部分入れ歯(義歯)のバネがかかる歯のケアを怠り、その歯にむし歯ができてしまいました。その後、支台歯まわりの清掃法を学び直し、支台歯を守って入れ歯(義歯)を継続使用されています。 部分入れ歯(義歯)は、かかる歯を守ることがそのまま入れ歯(義歯)を守ることです。
患者さまにぜひ覚えておいてほしい5つ
- 入れ歯(義歯)は多数欠損や骨・全身状態が難しいときの正当な選択です。
- 下の総入れ歯が浮くのは慣れの問題ではなく構造の問題です。歯ぐきの骨(歯槽骨)が減ると、さらにゆるくなります。
- インプラントを2本追加するだけでも、下の入れ歯(義歯)の安定性は大きく向上します。国際的にも推奨されている方法です。
- 部分入れ歯(義歯)は、かかる天然歯の管理が要です。その歯が悪くなると、入れ歯(義歯)も不安定になります。
- 数年ごとの再調整は失敗ではなくメンテナンスです。骨は変化し続けます。
ソウルBD歯科のムン・ソクジュン(文錫俊)院長です。下の入れ歯(義歯)が浮いて「自分が慣れられないだけだ」と自責の念を抱えて来院される方に、それはあなたのせいではなく、解決方法があることをぜひお伝えしたいと思います。
参考文献
この記事の医学的主張は以下の論文に基づいています。DOIをクリックすると原文に移動します。
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19(1):3–4 DOI: 10.1111/j.1741-2358.2002.00003.x