矯正後の歯は元に戻ろうとします。リテーナーは選択ではありません。

矯正後の歯は元に戻ろうとします。リテーナーは選択ではありません。
先週、診療室に20代後半の患者さまがいらっしゃいました。3年前に矯正を終えたのですが、下の前歯がまた乱れてしまったとのことでした。「院長先生、矯正が終わってからリテーナーを数カ月つけていたんですが、面倒でやめてしまいました。そしたらまたガタついてしまって…。また矯正しないといけませんか?」残念なケースでした。結論から申し上げると、矯正後の歯には元の位置に戻ろうとする性質があり、リテーナーはそれを防ぐための必須の装置です。選択ではありません。ご相談の場でしばしば見受けられる後悔のパターンです。
この文章の結論からお伝えします。第一に、矯正後に歯がなぜ戻るのか。第二に、リテーナーをどのくらい、いつまで装着すべきか。第三に、「一生つけるべきか」という質問への正直な答えです。
リテーナー(保定装置): 矯正で動かした歯が元の位置に戻らないよう、その位置を保持する装置。歯に固定する固定式と、ご自身で着脱する取り外し式があります。矯正の最後の段階であり、結果を守る要の工程です.
矯正が終わったのに、なぜリテーナーを装着しないといけないのですか?
最も多いご質問なので、率直にお答えします。
歯は矯正で新しい位置に移動しても、元の場所に戻ろうとする性質があります。これを再発(relapse)といいます。理由はいくつもあります。歯を包む歯肉や靭帯の線維が元の形を記憶していること、舌や唇の筋肉が歯を押す力が働き続けること、加齢に伴って顎の骨も少しずつ変化すること、などです。
特に 下の前歯が最も戻りやすいです。データでお示しすると、8年以上追跡した研究で 下顎にリテーナーを入れていない人は、装着していた人に比べて下の前歯の不規則度が約3倍も増加しました [Stability of orthodontic treatment outcome in relation to retention status: An 8-year follow-up, 2017, American Journal of Orthodontics and Dentofacial Orthopedics, PMID: 28554448]. つまり、リテーナーを怠ると、苦労して整えた下の前歯が再び乱れます。
ここで誤解されがちな通説を一つ正しておきます。「矯正が終わったら、リテーナーは数カ月だけ装着してやめてもよい」という考えは、半分どころか正しくありません。 リテーナーは矯正の“おまけ”ではなく、矯正の最終段階であり、結果を守る要です。リテーナーをおろそかにするのは、苦労して建てた家に屋根を載せないのと同じです。
要点を一文でまとめると、こうです. 矯正の結果が維持されるかを最も強く左右するのは、矯正をどれだけ上手く受けたかではなく、矯正後にリテーナーをどれだけ一貫して装着するかです。

リテーナーはどのくらい装着すべきですか?
この部分が患者さまにとって最も知りたいところです。
一般的な装着方法は次のとおりです。
| 時期と装着方法 | |
| 矯正直後〜数カ月 | 終日装着(食事・歯みがき時のみ取り外し) |
| その後6カ月〜1年 | 徐々に夜間装着へ移行 |
| その後 | 夜間のみ長期装着(可能なら生涯を推奨) |
重要な原則は 最初は終日、その後は夜間だけでも長く装着することです。
データがこれを裏づけています。系統的レビューで 1日9時間未満の装着は下の前歯の配列の安定性を低下させ、終日装着のほうが夜間のみ装着より安定性が高いことが示されました1. 特に、矯正直後の最初の1カ月と6カ月に装着が不足すると再発リスクが高くなりました。
続けてもう一つお伝えします。 保定装置は、最初の数カ月は終日、その後は夜間だけでも長く装着し続ける必要があります。夜間装着をやめたその瞬間から、歯は再び動き始めることがあります。
「一生つける必要がありますか」とのご質問に正直にお答えすると
これが本稿で患者さまにぜひ持ち帰っていただきたい最も重要なポイントです。正直に申し上げます。
ある程度は、そのとおりです。以前は保定装置は数年だけ装着すればよいと考えられていましたが、長期追跡研究の蓄積により見方が変わりました。歯は年齢を重ねても少しずつ動こうとするため、保定装置を完全にやめると時間の経過とともに再発することがあります。
そのため現在は 夜間装着だけでも長期的に、可能であれば生涯にわたり維持することを勧める場合が多いです。実際に固定式保定装置を20年間維持した症例も報告されています [Booth 2008, 20-year follow-up]。「一生」という言葉は重く聞こえるかもしれませんが、夜間に装着する程度なので日常生活の大きな負担にはなりません。
ただ、正直にもう一つ申し上げると、 保定装置を長く装着しても、ごく微細な変化まで完全に防ぐことはできません。上記の8年追跡研究でも、保定装置を続けた方に平均14%程度の微細な再発がみられました。しかし、保定装置なしの方に比べると格段に安定していました。つまり、 保定装置は再発を完全に防ぐものではなく大きく減らすものであり、それだけでも装着すべき十分な理由になります。
いつも患者さまにお伝えしていることがあります。 保定装置は「いつやめるか」を悩む装置ではなく、「どうすれば無理なく長く続けられるか」を考える装置です。
固定式と可撤式の保定装置、何が違いますか?
保定装置には2種類があります。
| 比較項目 固定式(歯の裏側に接着) 可撤式(着脱式) | ||
| 装着 | 常時固定(気にする必要なし) | ご自身で装着(コンプライアンスが必要) |
| 安定性 | 長期の歯列安定性に優れる | きちんと装着できれば有効 |
| 口腔衛生 | 管理が難しい(フロスが必要) | 外して歯みがき可能 |
| 破損・脱落 | 外れることがある(気づかず過ごすリスク) | 紛失・破損の可能性 |
| 適用 | 主に下顎前歯 | 上下全体 |
体系的レビューでは 固定式保定装置が長期の歯列安定性で優れている一方、可撤式は失敗率(紛失・破損)が高いものの依然として有効でした 1。両方を併用することも多く、下顎前歯は固定式でしっかり保持し、上下全体は可撤式で夜間に管理する方法です.
どの方法が適しているかは、患者さまの歯の状態や生活パターンによって異なります。固定式は気にかける必要がないという利点がありますが口腔衛生の管理が必要で、可撤式は管理が容易な一方でご自身で装着するコンプライアンスが求められます。
この点はご安心ください。「一生保定装置なんて負担だ」と感じる必要はありません。固定式は一度接着すればほとんど気にする必要がなく、可撤式も夜間装着ですから就寝中に入れておく程度です。大変な思いで得た矯正の結果を守るための小さな習慣だとお考えいただければ十分です。
保定装置をおろそかにしてしまったら、どうすればよいですか?
すでに保定装置(リテーナー)を着けておらず、歯が少し乱れてしまった場合、どう対処すべきかをご案内します。
- ごくわずかな変化であれば— 再び保定装置を装着して、これ以上の進行を止めます。すでにずれてしまった部分は元に戻せなくても、悪化は防げます.
- ある程度ずれてしまった場合— 部分的な再矯正(短期間)が必要になることがあります。マウスピース型の透明矯正で軽く整え直すこともあります.
- 大きく後戻りしている場合— 残念ながら、再矯正が必要になることがあります.
要点は ずれに気づいたときに早く対応するほど負担が少ないということです。ごく初期のうちに保定装置を再装着すれば再矯正なしで食い止められますが、放置すると再矯正につながります.
当院の診療室での症例を2例
20代後半の女性の方。矯正後、保定装置を数か月だけ装着して中断されたところ、下の前歯が再び乱れて来院されました。幸い初期だったため、部分的なマウスピース型透明矯正で短期間で整え直し、今回は固定式の保定装置を付けて再発を防ぎました. 最初から継続して保定装置を装着していれば、再矯正は不要だったケースです。
30代前半の男性の方。矯正後、10年近く夜間に取り外し式の保定装置を継続して着用されました。定期検診でも、歯並びは矯正直後の状態をほぼそのまま維持していました. 夜間のみの着用でも、継続すれば矯正の結果は長く保てます。
患者さまにぜひ覚えておいていただきたい5つのポイント
- 矯正後の歯は元の位置へ戻ろうとする性質があります。保定装置は選択ではなく、結果を守るための必須の装置です。
- 保定装置を使わずに過ごすと、下の前歯は約3倍も乱れやすくなります。下の前歯が最も後戻りしやすいです。
- 最初の数か月は終日、その後は夜間だけでも長期に着用してください。1日9時間未満の着用は安定性を損ないます。
- 「一生着けなければならないのか?」への答えは、ある程度そのとおりです。夜間だけの着用でも、長く続けることが推奨されます。負担は大きくありません。
- 保定装置を怠って歯並びが乱れてしまったら、早めに対応してください。ごく初期のうちに再装着すれば防げますが、放置すると再矯正につながります。
ソウルBD歯科のムン・ソクジュン(文錫俊)院長です。大変な矯正を終えられた患者さまが、保定装置をおろそかにしてせっかくの結果を失ってしまわないようにとの思いで書きました。矯正の本当の仕上げは装置を外す日ではなく、保定装置でその結果を長く守ることです。
参考文献
この記事の医学的主張は以下の論文に基づいています。DOIをクリックすると原文に移動します。
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Applied Sciences DOI: 10.3390/app132011442