歯に白い斑点ができたなら、むし歯のはじまりかもしれません

初期のむし歯は削らずに元に戻せます。ゴールデンタイムがあります
先週、診療室に30代後半の患者さまが定期検診で来院されました。奥歯に白い斑点が見えたのでお伝えすると、とても驚かれました。「院長先生、これってむし歯ですか?すぐ削って詰めないといけませんか?」結論から申し上げると、削らなくて大丈夫です。この段階のむし歯は削るのではなく、元に戻すことができます。ただし、そのゴールデンタイムを逃すと、結局は削らざるを得ません。診療室でよく出会うケースです。
この文章で必ず覚えていただきたいことを先に書きます。第一に、むし歯はどうやって生じるのか、そして突然できるのではなく段階的に進むということです。第二に、どの段階までなら削らずに止めたり元に戻せて、どの段階からは削らなければならないのかです。第三に、そのゴールデンタイムを逃さないために患者さまが何をすべきかです。
むし歯(う蝕): 口腔内の細菌が食べ物の糖分を分解して酸をつくり、その酸が歯の硬い外側の殻(エナメル質)を溶かすことから始まる疾患です。初期は歯の表面からミネラルが抜け出す程度ですが、進行すると穴があき、最終的には神経まで侵します。
むし歯はどうやってできるのですか?
最も多くいただく質問なので、結論からお話しします。
むし歯は、いきなり穴があくわけではありません。次のような過程で進行します。
お口の中には細菌が住んでおり、細菌は召し上がった食べ物の糖分を利用して酸をつくります。その酸が歯の表面に触れると、エナメル質からミネラル(カルシウム・リン)が溶け出します。これを脱灰といいます。一方で、唾液やフッ素がミネラルを再び補います。これを再石灰化といいます。
むし歯はこの脱灰と再石灰化の綱引きです。ふだんは二つの過程が均衡していますが、糖分を頻繁に摂ったり歯みがきが不十分だと、脱灰が再石灰化を上回ります。その結果、ミネラルが徐々に失われ、最終的に歯の表面が崩れて穴があきます [Remineralization of Initial Carious Lesions, StatPearls, NCBI]。
ここでよくある誤解を一つ正しておきます。「むし歯になったら必ず削って詰めなければならない」という考えは、半分だけ正しいのです。穴があく前の段階であれば、削らずに進行を止めたり元に戻すことができます。どの段階のむし歯かによって、答えはまったく異なります。
一文でまとめると、こうです。 削るべきか元に戻せるかを最も強く左右するのは、むし歯があるという事実そのものではなく、歯の表面に穴があいているかどうかです。

むし歯の進行4段階
当院の診療室で患者さまにご案内している区分です。
1段階 — 初期むし歯(白斑): エナメル質からミネラルが失われ、歯の表面が白く不透明な斑点に見える段階です。まだ穴はあいていません。 この段階は元に戻せます。フッ素でミネラルを補えば、進行が止まるか回復します。」
2段階 — エナメル質のむし歯: エナメル質が崩れて表面に小さな穴ができた段階です。まだ痛みはほとんどありません。この段階からは一般的に、削って詰める治療(充填)が必要になります。ただし、一部の非う窩性(穴ができはじめ)のむし歯は、非修復的な方法で進行を止められる場合があります。
3段階 — 象牙質のむし歯: むし歯がエナメル質を越えて内側の象牙質まで進んだ段階です。冷たいもの・甘いものでしみることがあります。充填、またはより大きな修復(インレー・オンレー)が必要です。
4段階 — 神経への波及: むし歯が歯の内側の神経まで到達した段階です。じっとしていてもズキズキする痛みが出ます。神経治療(根管治療)が必要です(29~32編 参照)。
核心は 1段階から2段階へ移るその瞬間が、患者さまのゴールデンタイムということです。穴があく前(1段階)なら元に戻せますが、いったん穴があくと(2段階以上)、その部分は再生しないため、削って詰める必要があります。
初期のむし歯は、本当に元に戻せるのですか?
これが、本稿からぜひ持ち帰っていただきたい最重要ポイントです。研究結果でお答えします。
初期エナメル質う蝕(白斑)に関するメタ解析で 5%フッ化ナトリウム・バーニッシュを塗布した場合、初期エナメル質う蝕の63.6%が再石灰化(回復)しました1. つまり、穴があく前の初期むし歯の多くはフッ素治療で元に戻せるという意味です.
米国歯科医師会(ADA)もこれを公式に認めています。 活動性の非窩洞性(穴が開いていない)むし歯は、フッ素、シーラント、浸潤レジンなど修復を伴わない方法で停止できると勧告しています 2. 歯を削らなくてもむし歯の進行を止められる方法が、学界で認められています.
ここにもう一つ付け加えます。 むし歯が穴のあく前の段階なら、削って詰めるのではなく、フッ素で元に戻すのが正解です。すべてのむし歯がただちに削るべきというわけではありません.
当院ではこの点を次のようにお伝えしています。 「検診で初期むし歯を見つけた場合は、すぐに削らず、経過を見ながらまずは元に戻す取り組みを行います。」これが定期検診が重要なもう一つの理由です。穴があく前に見つけてこそ、元に戻すチャンスがあります.
削る必要があるむし歯 vs 戻せるむし歯
| 比較項目戻せるむし歯削る必要があるむし歯 | ||
| 段階 | 1段階 白斑 | 2段階以上 |
| 穴 | なし(表面はなめらか) | あり(表面が崩れている) |
| 痛み | なし | なし、またはしみる・ズキズキする |
| 治療 | フッ素塗布・再石灰化の試み | 削って充填、またはそれ以上 |
| 自然回復 | 可能 | 不可能 |
| 患者さまの役割 | 歯みがき・フッ素・糖分管理でサポート | 治療後の再発予防 |
この表が患者さまにお伝えしたい核心はシンプルです。 穴があいているかどうかが、削るか戻すかの分かれ目ですです。そして、この分かれ目は患者さまが鏡で正確に見分けるのは難しいものです。診療室での検診とX-rayで判断します.
むし歯の進行を止める7つの方法
むし歯は脱灰と再石灰化の綱引きだとお伝えしました。再石灰化に傾ける方法は次のとおりです.
- フッ素入り歯みがき剤の使用— 最も基本で、最も実証された方法です。フッ素がミネラルを補い、エナメル質を酸に強くします.
- 歯みがき後はフッ素入り歯みがき剤を吐き出すだけにして、すすがない— 水でしっかりすすぐとフッ素が流れ落ちます。軽く吐き出すだけにすると、フッ素がより長く作用します.
- 糖分をとる回数を減らす— 量より回数が大切です。飴を一度に食べるよりも、一日中少しずつ口にする方が、歯にはより有害です。食べるたびに口内が酸性に傾くためです.
- 間食・飲み物の間隔を空ける— 口内が酸性から中性へ回復する時間を与えるためです.
- 歯と歯の間の清掃は毎日1回— むし歯は歯ブラシが届かない歯と歯の間から始まることが多いです(第41回を参照)。
- 就寝前の歯みがきを徹底— 就寝中は唾液が減って再石灰化が弱まります。寝る前の歯みがきがとくに重要です.
- 定期検診で早期発見を— 穴が開く前に見つければ、元に戻すチャンスがあります.
ここで一つ、はっきりと安心していただきたいことがあります。患者さんが "自分は甘いものが好きだからむし歯になった" とご自分を責める必要はありません。むし歯は脱灰と再石灰化の自然なサイクルで、誰にでも起こります [StatPearls]。大切なのは、その綱引きを再石灰化の側に傾けること。上の7つはすべて、患者さんご自身で実践できることです.
むし歯は一度できると、ずっと進行し続けますか?
患者さんがよく誤解される点です.
むし歯は一度始まっても、必ず進み続けるわけではありません. 活動性むし歯(進行中)と 停止性むし歯(停止)があります。適切に管理すれば進行中のむし歯が止まることもあり、逆に管理が不十分だと、止まっていたむし歯が再び進むこともあります.
とくに 38%ジアミン銀フッ化物(SDF)という薬剤は、進行中の象牙質むし歯でも進行を止められます。メタ分析では 38%ジアミン銀フッ化物で象牙質むし歯の65.9%が停止しました1。ただし、この薬剤はむし歯部位を黒く変色させる欠点があるため、主に小児や削ることが難しいケースで用いられます.
要点はこうです。 むし歯は「削るか削らないか」だけの単純な話ではなく、進行を止めて元に戻すために管理する対象でもあります.穴が開いたむし歯は削る必要がありますが、その手前の段階や止められるむし歯は、管理で進行を抑えられます.
当院の症例を二つ
30代後半の女性。臼歯に白斑(初期のむし歯)を認めました。まだ穴は開いていない1段階でした。すぐには削らず、フッ素塗布とともに糖分摂取の習慣と歯みがきの管理をご案内しました。6か月後の再診で白斑はそれ以上進行せず安定していました. 穴が開く前に見つけられたことが、削らずに済んだ理由です.
40代前半の男性。"甘いものは食べていないのにむし歯ができた" と不思議がっておられました。観察の結果、原因は甘い食べ物そのものよりも、一日中コーヒーミックスや炭酸飲料を少しずつ頻回に飲んでいたことでした。摂取回数が多いと口内は酸性に傾いたままになります。回数を減らしていただいたところ、新たなむし歯の発生が止まりました. むし歯は糖分の量よりも、口にする回数が重要です.
患者さんにぜひ覚えておいてほしい5つ
- むし歯は突然できるのではなく、脱灰と再石灰化の綱引きです。糖分と歯みがきの管理で、再石灰化の側に傾けられます.
- 穴が開く前の初期むし歯(白斑)は、削らずに戻すことができます.フッ素で初期むし歯の63.6%が再石灰化します.
- 穴が開いているかどうかが、削るか元に戻すかの分かれ目です。一度穴が開くとその部分は再生しないため、削る必要があります.
- むし歯は糖分の量よりも、口にする回数が重要です.一日中ちょこちょこ摂る方が、一度にたくさん摂るよりも有害です.
- 定期検診がゴールデンタイムを守る鍵です.穴が開く前に見つけてこそ、削らずに戻すチャンスがあります.
ソウルBD歯科のムン・ソクジュン(文錫俊)院長です。患者さんが "むし歯=無条件に削る" とは思われないように、この記事を書きました。初期に発見したむし歯は、削るのではなく戻せるチャンスです。そのチャンスは、穴が開く前までです.
参考文献
この記事の医学的主張は以下の論文に基づいています。DOIをクリックすると原文に移動します。
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BMC Oral Health DOI: 10.1186/s12903-016-0171-6
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