口が渇くこと(口腔乾燥症)は、なぜむし歯・歯周病につながるのですか

一生懸命みがいているのに、なぜむし歯が繰り返すのか — 隠れた犯人は「口の渇き」かもしれません
60代後半の患者さまが、納得いかないご様子で来院されました。検診のたびに新しいむし歯が見つかるというのです。『先生、私、本当に歯みがきを頑張っています。甘いものもあまり食べません。でも来るたびに新しいむし歯ができたって言われるんです。私、何をそんなに間違えているのでしょう?』私はいくつかお聞きしたあと、こう尋ねました。『最近、口がよく渇きませんか? お飲みの薬は何種類くらいありますか?』その方は血圧の薬を含め、五種類の薬を服用していました。
今回から新しいテーマ「口の渇き」を取り上げます。本稿のポイントは三つです。第一に、唾液の役割は想像以上に大きいこと。第二に、口が渇くとなぜむし歯や歯周病が起こりやすくなるのか。第三に、なぜ自分の口が渇くのか、そしてそれが「仕方のないこと」ばかりではないという点です。
まず用語を整理します。
口腔乾燥症(口の渇き): 口の中が渇いていると感じる症状です。唾液が実際に減っている場合と、量は正常でも渇きを感じる場合があります。
唾液はそれほど重要なのですか?
まず、唾液に関する誤解を解きましょう。唾液は単に口を潤す水ではありません。お口を守る防御システムに近い存在です。
唾液の働きを挙げてみます。第一に、食べかすや細菌を洗い流します。第二に、細菌が作る酸を中和して歯が溶けるのを防ぎます。第三に、カルシウムやリンなどのミネラルを運び、でき始めのごく初期のむし歯を再石灰化します。第四に、細菌を抑える成分を含みます。第五に、口腔内をなめらかにして、噛む・飲み込む・話すことを助けます。健康な人は1日に1,000~1,500ミリリットルの唾液を作ります。その分だけ、休むことなく口を守っているのです。

口が渇くと、なぜむし歯・歯周病が起こりやすくなるのですか?
ここが核心です。唾液が減ると、先に述べた防御がまるごと弱くなります。
酸を中和できないため歯が溶けやすくなり、洗い流せないため食べかすと細菌が蓄積し、ミネラルを補給できないため初期むし歯は回復せず進行します。その結果、むし歯が複数、しかも短期間にできます。特に、歯ぐきが下がって露出した歯の根元にむし歯ができやすくなります。歯周病も悪化し、カンジダなどの真菌性炎症や口臭、入れ歯(義歯)が合わなくなる問題まで起こります。
口の渇きで本当に重要なのは、のどの渇きそのものではなく、歯を守っていた唾液の防御が失われることです。だから、どれだけ一生懸命みがいても、唾液が不足していればむし歯は繰り返し生じ得ます。歯みがきは防御の一部にすぎず、唾液が担っていた残りの働きを代わることはできないからです。
自分はなぜ口が渇くのでしょうか?
原因はいくつもありますが、最も多いものからお伝えします。
- 複数の薬を併用— 最も一般的な原因です。400種類を超える薬が副作用として口の渇きを起こします.
- ポリファーマシー(5種類以上)— 薬が重なるほどリスクが高まります。
- 慢性疾患— 糖尿病などが唾液分泌に影響します。
- 自己免疫疾患(シェーグレン症候群)— 唾液腺そのものが攻撃され、渇きます。
- 頭頸部の放射線治療— 唾液腺が損傷します。
- カフェイン・酒・たばこ— 体内の水分量と唾液分泌の刺激を低下させます。
- 鼻づまりによる口呼吸— 特に就寝中に口の中が乾きます。
数字でお示しすると、五種類以上の薬を併用している高齢層では口の渇きの有病率が71.2%に達していました 1. 十人に七人程度です。
年を取ると、もともと口が渇きやすいのではありませんか?
ここで一般的な通念をやわらかく否定します。「年を取れば口は乾くもの、仕方がない」 — これは半分だけ正しい考え方です。
もちろん、加齢とともに口が渇くと感じる方が多いのは事実です。しかし近年の研究では、その原因は年齢そのものよりも、加齢に伴って増える薬剤や疾患に近いと考えられています 2. つまり、年齢のせいにしてあきらめることではなく、原因を見つけて管理できる問題であることが多いのです。
もう一つよくある誤解があります。「水をたくさん飲めばよい」— 半分も当たっていません。水は一時的な不快感は和らげますが、唾液が担うミネラル補給や細菌の抑制までは代わりになりません。ですから、水だけではむし歯を防ぐことはできません。
口が渇く原因と、できること
原因ごとに対処の方向性を整理しました。
| 要因・なぜ乾くのか・できること | ||
| 複数の薬の服用 | 唾液分泌を抑える副作用 | 歯科・主治医と薬を見直す(自己判断で中止は禁物) |
| 加齢+慢性疾患 | 薬や疾患が重なる | 原因の管理、予防の強化 |
| シェーグレンなどの自己免疫疾患 | 唾液腺そのものを攻撃 | 検査と専門的な診療 |
| 頭頸部への放射線治療 | 唾液腺の損傷 | 予防の強化、代替唾液の使用 |
| カフェイン・酒・たばこ・口呼吸 | 脱水・刺激の要因 | 習慣の見直し、鼻づまりの治療 |
口が渇くときに実践できる7つのこと
- 服用中の薬のリストを歯科に伝えてください— ただし、自己判断で中止せず、主治医に相談してください。
- 水はこまめに少量ずつ飲み、カフェイン・酒・たばこを控えてください— 口の中の乾きを和らげます。
- アルコール入りのマウスウォッシュは避けてください— かえって口の中を乾燥させます。
- ノンシュガーのガムや飴で唾液分泌を促してください— 砂糖入りは、かえってむし歯を招きます。
- フッ素によるケアを強化してください— むし歯が急増しやすい状況なので、高濃度フッ素や定期的な塗布が役立ちます。
- 就寝前はとくに気を配り、寝室を加湿してください— 寝ているあいだが最も乾きます。
- 口の渇きが続く場合は原因の検査を受けてください— シェーグレン症候群や糖尿病が隠れていることがあります。
一生懸命に歯みがきしているのに、むし歯ができたのは自分のせいだと感じていませんか?
しっかりケアしているのにむし歯が繰り返すと、「自分が何か間違っているのでは」と責めてしまいがちです。その必要はありません。
口が乾いていると、どんなに丁寧に歯みがきしていても、唾液が担っていた防御が失われているため、むし歯が生じやすくなります。これは努力の問題ではなく、条件の問題です。そしてその条件、つまり口の渇きの原因の多くは薬や病気にあります。患者さまのせいではありません。むしろ原因を突き止めれば、予防をよりきめ細かく行い、むし歯の流れを変えることができます。
当院での症例を2例
60代後半の女性の患者さま。熱心に歯みがきしているのに、むし歯を繰り返していました。5種類の薬を服用中で、口の渇きがはっきり認められました。主治医と薬を見直し、フッ素ケアを強化し、唾液を促す習慣を取り入れたところ、むし歯の発生が目に見えて減りました。 隠れた原因がお口の乾燥(ドライマウス)だったケースです.
30代前半の男性患者さま。鼻づまりが頻繁で、口で寝てしまう習慣があり、毎朝お口がカラカラに乾いていました。前歯まわりのトラブルが繰り返し起きていました。鼻づまりの治療と就寝前のケア、加湿を併用して改善しました. お口の乾燥(ドライマウス)は高齢の方だけの問題ではありません.
患者さまにぜひ覚えていただきたい5つのこと
- 唾液は単なる水ではなく、お口の防御システムです.酸を中和し、ミネラルを補給し、細菌を抑制します.
- お口が渇くと、しっかり歯みがきしていてもむし歯ができることがあります.唾液の防御が働きにくくなるためです.
- 最も多い原因はお薬です.特に5種類以上を服用している場合はリスクが高くなります.
- 年齢のせいだとあきらめる必要はありません.原因を見つければ管理できます.
- お薬は自己判断で中止せず、服用中の一覧を歯科にお知らせください.
ソウルBD歯科のムン・ソクジュン(文錫俊)院長です。熱心にケアしているのにむし歯が繰り返し起きてしまい、自分を責めて来院される方に、隠れた原因がお口の乾燥(ドライマウス)である場合があることをぜひお伝えしたいと思いました.
参考文献
この記事の医学的主張は以下の論文に基づいています。DOIをクリックすると原文に移動します。
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35:877–885 DOI: 10.1007/s40266-018-0588-5