歯ぎしり・食いしばり、咬合安定装置(マウスピース)は装着したほうがよいですか

装置を付ければ歯ぎしりが治る? — マウスピースが実際にできること・できないこと
40代前半の患者さまが配偶者に連れられて来院されました。「私が毎晩歯をきしませる音で、隣で寝る人が眠れないそうです。でも私は全然気づきません。装置をひとつ付ければ、これ無くなりますよね?」当のご本人は症状が全くないとおっしゃいました。私は率直にお伝えしました。「装置は音を消す道具ではありません。役割が少し違います。」
歯ぎしりの話を続けます。前回の投稿で顎関節(TMJ)の危険信号として少し触れた食いしばりを、今回は正面から扱います。要点は三つにまとめられます。第一に、歯ぎしりとは正確には何で、病気なのかどうか。第二に、自分が歯ぎしりかどうかを自宅でどう知るか。第三に、夜に装着する装置が実際に何をして、何はできないのか、です。
まず用語から整理します。
歯ぎしり(bruxism):眠っているとき・起きているときに歯をこすり合わせたり強く噛みしめる、咀嚼筋の反復的な活動。就寝中に起こるものを睡眠歯ぎしり、起きているときに無意識に歯を強く噛みしめるものを覚醒歯ぎしりと呼びます。
歯ぎしりは病気ですか、それとも習慣ですか?
ここでまず通念をひとつ正します。「歯ぎしりは治さなければならない病気」という考え方は、半分だけ正しいのです。
国際的な専門家の合意では、他の疾患がない健康な人にとって歯ぎしりはそれ自体としては「疾患」ではなく一つの「行動」であり、ある結果のリスク要因にもなり得る一方、時には保護因子にもなり得ると整理されています 1。つまり、歯ぎしりがあるという事実だけで必ず治療が必要というわけではありません。問題になるのは歯ぎしりそのものではなく、その結果として歯がすり減る、顎が痛むといった事象です。
ですから、「歯をきしませている」と言われても、まず怖がる必要はありません。どのくらい一般的かを数字でお見せします。成人で頻度の高い睡眠歯ぎしりは約 13% と報告され、日中に歯を噛みしめる覚醒歯ぎしりは調査によって 22~31% までみられます 2。珍しくない現象だということです。

私も歯ぎしり? 自宅で分かる7つのサイン
睡眠歯ぎしりは寝ている間のことなので、自分では気づきにくいものです。そこで診療室では口の中に残る痕跡から推測します。次のサインをセルフチェックしてみてください。
- 朝、顎・こめかみが重だるい— 就寝中に咀嚼筋が働き続けた結果です。
- 一緒に寝ている人が「歯ぎしりの音を聞いた」と言う— 睡眠歯ぎしりで最も一般的な発見経路です。
- 前歯・奥歯が平らにすり減っている、または歯がしみる— 表面が削れた痕跡です。
- 頬の内側に白い線がある、または舌の縁に歯形がついている— 噛み締める力の痕跡です。
- 日中、集中しているときに上下の歯が接触している— 本来、日中は歯が触れないのが正常です。触れているなら覚醒歯ぎしりのサインです。
- 原因不明のこめかみの頭痛が朝にある— 咀嚼筋の緊張が波及していることが多いです。
- 歯にマイクロクラックが入る、詰め物・補綴物がよく割れる— 繰り返しかかる大きな力の結果である可能性があります。
いくつも当てはまるからといって、今すぐ大事に至るわけではありません。ただし、歯の摩耗や顎の痛みを伴う場合は受診をおすすめします。
歯ぎしりはなぜ起こるのですか? 私のストレスのせいですか?
多くの患者さまが「私が神経質でストレスも多いから歯ぎしりするんですよね。私のせいですね」と自責されます。そんな必要はありません。
かつては歯ぎしりは「歯がよく噛み合っていない(咬合の問題)」から生じると考えられていましたが、今ではそうは見なしません。歯ぎしりは一つの原因ではなく、複数の要因が絡み合って現れます。ストレスや緊張といった心理的要因が関与するのは確かですが、睡眠の覚醒パターン、喫煙・飲酒・カフェイン、一部の薬剤、遺伝的素因までが一緒に作用します。ですから「性格のせい」「自分の管理不足のせい」と断じるのは難しいのです。患者さまの落ち度ではない場合が多いのです。原因を悔やむより、今この瞬間に歯と顎をどう守るかがより重要です。
装置を付ければ歯ぎしりは止まりますか?
この記事で最も重要な部分です。結論から率直に申し上げます。夜に装着する装置は、歯ぎしり自体を止める道具ではありません。
歯ぎしりは脳と筋肉で起こる活動です。口の中に装置を入れたからといって、その活動が消えるわけではありません。実際、エビデンスを総合したコクラン・レビューは、咬合安定装置が睡眠歯ぎしりを治療すると言えるだけの根拠は十分ではなく、ただし歯の摩耗を減らすうえでは役立つ可能性があるとまとめています 3.
歯ぎしりで本当に大切なのは、歯ぎしりそのものを止めることではなく、その力から歯や顎を守ることです。装置は上下の歯の間に硬い層を一枚はさみ、削れる力を歯ではなく装置に受けさせる盾の役割をします。ですので「歯ぎしりの治療」ではなく「歯の保護」と理解していただくのが正確です.
ここで臨床的に知っておくとよい微妙なポイントが一つあります。柔らかい素材の既製マウスピースは、無意識にかえって噛む回数を増やしてしまうことがあるという観察があります。そのため、ただ柔らかいものを入れるよりも、歯科で作った硬めの安定装置(ナイトガード)の方がたいてい安定します。
歯科のオーダーメイド装置 vs 薬局・オンラインの既製品、何が違うのですか?
実際に患者さまが迷われる選択です。二つを比較してご説明します。
| 比較項目歯科オーダーメイド咬合安定装置薬局・オンライン既製マウスピース | ||
| どんな場合に? | 歯の摩耗・顎の痛みがあり、管理が必要なとき | まずは手軽に試したいとき |
| 適合性 | 型取りをして歯列に合わせて製作 | 標準サイズで、合わないことがある |
| 素材 | 多くは硬めの素材(安定的) | 柔らかい素材が多い(かえって噛みやすくなることがある) |
| 管理・調整 | 定期的に状態・咬み合わせをチェック | 点検なしで自己使用 |
| 注意点 | 費用と通院が必要 | 合わないと咬む力が片側に偏ることがある |
いずれのタイプでも、朝に顎がより痛む、特定の歯だけ当たる感じがするなどは装置が合っていないサインです。必ず点検を受けてください。
当院の症例を二つ
30代後半の女性。前歯の裏側が薄くすり減り、しみるとのことで来院されました。睡眠時の歯ぎしりが疑われ、摩耗をこれ以上進めないために夜間装着の安定装置をお作りしました。歯ぎしり自体が消えたわけではありませんが、その後の歯の摩耗の速度は目に見えて遅くなりました。 装置の役割が「治療」ではなく「保護」であることをよく示す一例です。
50代前半の男性。薬局で購入した柔らかいマウスピースを数カ月使っていましたが、かえって朝の顎の痛みが強くなって来院されました。確認すると、装置が歯列に合っておらず、片側だけに力がかかっていました。オーダーメイドの装置に替えてから、朝の痛みが軽減しました。 既製品が必ずしも悪いわけではありませんが、合わない装置はない方がましな場合もあります。
患者さまにぜひ覚えておいてほしい5つ
- 歯ぎしりそのものは、必ず治療しなければならない病気ではありません。問題なのは歯ぎしりそのものではなく、歯の摩耗や顎の痛みといった結果です。
- 夜に装着する装置は、歯ぎしり自体を止めることはできません。その力から歯を守る盾です。
- ご自宅でサインをチェックしましょう。朝の顎のこわばり、歯の摩耗、頬の内側の白い線、日中に歯を合わせ続ける癖が代表的です。
- 柔らかい既製品より、オーダーメイドの硬めの装置の方がたいてい安定します。合わない装置は、かえって顎に負担になります。
- 自分を責めないでください。歯ぎしりはストレスだけで起こるものではなく、複数の要因が絡み合った結果です。
ソウルBD歯科の院長、ムン・ソクジュン(文錫俊)です。歯ぎしりを「なくす」ではなく「うまく付き合い管理する」と考えを切り替えることで、患者さまの歯の寿命をぐっと延ばすことができます。
参考文献
この記事の医学的主張は以下の論文に基づいています。DOIをクリックすると原文に移動します。
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1
45(11):837–844 DOI: 10.1111/joor.12663
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2
27(2):99–110 DOI: 10.11607/jop.921
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(4):CD005514 DOI: 10.1002/14651858.CD005514.pub2